【2021年】メジャーリーグで投球される球質の特徴~ボール変化量とは~
「トラックマン」で計測される正確で目新しいデータ
現在、メジャーのすべての球場で、「トラックマン」と呼ばれる計測機器が設置され、ボールの速度やボールの回転、リリースポイント等多くのデータが採取されている。baseballsavantにおいてもトラックマンによって計測されたデータの一部が公開されており、私たちがみることも可能だ。
日本では、バックネット裏に設置されたスピードガンによって球速が計測されており、「あの球場は左投手の球速は遅い」のように、精度に関して時折話題に上がる。そこでトラックマンとスピードガンの違いを、設置場所と計測ポイントの観点から比較してみる。
- スピードガン
スピードガンの構造上、投球されたボールの真後ろや真ん前で計測したときに、もっとも精度良く計測することができる。日本の球場では、スピードガンの設置してある場所がまちまちであり、球場間で球速が異なっているのが現状だ。
また、日本で計測されているスピードガンは、投球されてから捕手に到達するまでのどの部分の球速を計測しているか分からない。
- トラックマン
すべての球場で同じようなところに設置されており、計測の方法上、スピードに関しては精度良く計測できることが分かっている。
リリース直後のボールスピードを計測できるため、本当の初速を測ることができる。
このような理由から、各選手の球速を評価する上で、トラックマンのデータは非常に価値の高いデータであるといえる。
参考:「トラックマン」とは?最先端の計測機器で取れるデータを紹介!!
「スピンレートが高い≠良いボール」
また、トラックマンから得られるもので注目すべきデータは、スピンレートだ。投球されたボールが1分間で何回転するのかを表したもので、これもbaseballsavantで公開されている。
このスピンレートが大きいと、「ノビがある」、「キレがある」と言われることがあるが、必ずしもそうではない。一般的には、スピンレートが大きいボールには、大きな力(揚力)が作用するが、この見解にはある前提条件が存在する。それは、「回転軸が進行方向と直角であった場合」ということだ。ライフルのような回転をしている場合、いくら回転しても揚力は作用しない。つまり、スピンレートは、ボールの変化を決めている揚力を決める1つの要因に過ぎないということだ。しかも、回転軸の方向のほうが個人差が大きくなっている。残念ながら、トラックマンで回転軸の方向を計測することはできない。
野球中継では、スピンレートばかりが取り上げられており、スピンレート偏重であると言わざるを得ない。ボールの質を評価するうえで、「スピンレートは1つの判断材料に過ぎない」ということを念頭に置いてデータに向かうことが必要だろう。
ボールの変化を直接評価する指標
baseballsavantでは、ボールの変化量を直接評価する指標が公開されており、ボールに作用した揚力によってボールがどのくらい変化したのかを表している。
スピンレートが揚力を生み出す「原因」であるならば、ボールの変化量は、投球されたボールの「結果」となっている。これは、投手の球質を評価する上で、重要なデータだ。このデータも、トラックマンによって計測されており、リリース直後から、ホームプレートまでが計測区間になっている。この変化量は重要でありながら、その解釈はやや難解なものだ。丁寧に説明していく。
ナックルボールはゆらゆらと揺れるような変化をする。このようなほぼ無回転のボールは、縫い目の影響によって、ボールに力が作用して曲がる。これ以外の球種は、基本的には回転することによるマグヌス効果によって、ボールに力が作用する。このボールの回転によってボールが曲がる場合だけを考えていきたい。
図1の黄色の線は、実際に投球されたボールの軌道になる。また、青色で示された線は、ボールが回転せずに重力のみが作用した場合の軌道だ。青線は、黄線と同じボールスピードで同じ方向にリリースされた場合で、初期条件は同じになる。
・バックスピンをしている4シームはホームベース上で青い線よりも黄色い線のほうが上に到達する。
・トップスピンしているカーブはホームペース上で青い線よりも黄色い線のほうが下に到達する。
そして、この2つの軌跡のホームベース上での差を、ボールの変化量として表している。
このボールの変化量は、以下の上下左右の4成分に分けることができる(図2)。
- ホップ成分
青線よりも黄線のほうが上にボールが到達したときをホップ成分と表現する。
- ドロップ成分
ホップ成分とは反対にトップスピンによって青線よりも下に到達したときをドロップ成分と表現する。
- シュート成分
右投手の投球腕方向に曲がっていた場合をシュート成分と表現する。
- スライド成分
シュート成分とは反対に曲がっていた場合をスライド成分と表現する。
表1の縦変化は、正の値がホップ成分、負の値がドロップ成分ということになる。また、横変化は、正の値がシュート成分で、負の値がスライド成分だ。なお、表1の横変化は、すべて右投手に変換して記載してある。
このように、変化の様子を数値として扱うことができるのが、ボールの変化量の特徴だ。
図3はこれらボールの変化量を可視化したものだ。これは投手の持ち球を知る上でとても優れた図となる。
プロ野球のデータ公開は?
ここまで、「ボール変化量」についてみてきた。日本でも、広島を除く11球団でトラックマンが導入され、野球中継でもデータが取り上げられているのを目にする機会は増えてきた。プロ野球のデータも、baseballsavantのように私たちがみられるようになる日が待ち遠しい。
Baseball Geeks編集部