速球は最も飛ぶボール? 球種別で見られる打球特性とは
「真っ向勝負」と聞くとどんなイメージを思い浮かべるだろう?速球で真っ向勝負する姿に「美学」を感じている人は少なくないのではないだろうか。
今回は、投手の球種に着目し、メジャーリーグのトラッキングデータを使って「速球」がどのような性質をもったボールであるのかを考えていきたい。
速球はどの程度投げられているのか
速球の性質を考えていく上で、まず速球がどの程度投げられているのかを見てみたい。2018年メジャーリーグの全投球約73万球から、球種別の投球割合を下記に示した。図をみると、速球は35%と最も投球割合が高かった。「速球はピッチングの中心」と言われることも多いが、実際に最も多く投じられる球種であった。
イベント割合で見る各球種の傾向
次に、球種別にどのようなイベントが発生したかを見てみよう。投球に対し打者がスイングを行うことで、空振り・ファウル・ゴロ・ライナー・内野フライ・外野フライのいずれかが発生する。これを「イベント」と定義する。
イベント | 発生割合 | 安打割合 | 長打割合 | 本塁打割合 |
---|---|---|---|---|
ゴロ | 45% | 24% | 2% | 0% |
ライナー | 25% | 62% | 22% | 2% |
外野フライ | 23% | 26% | 22% | 17% |
内野フライ | 7% | 2% | 1% | 0% |
※2018年MLBデータ
それぞれのイベント毎に失点するリスクを考えた場合、最もリスクが低いのは空振り。三振を奪えば、失点する可能性は限りなくゼロだ。打球となった場合は、どんな打球かによってリスクは変化するが、ゴロはフライやライナーと比べて安打や長打の可能性が圧倒的に低い。すなわち、リスクが小さい。
参考:イベントのリスクからみる野球の本質
では、球種別で起こるイベントはどのような性質を持つのか。投手にポジティブとなる場合を赤、ネガティブになる場合を青で示した。
球種 | 空振り/
スイング | 内野フライ | ゴロ | 外野フライ
+ライナー | ファール |
---|---|---|---|---|---|
速球 | 18.1% | 3.5% | 12.5% | 19.7% | 46.2% |
ツーシーム | 13.2% | 2.0% | 24.6% | 19.1% | 41.0% |
スライダー | 34.0% | 2.9% | 14.8% | 15.9% | 32.4% |
チェンジアップ | 29.6% | 2.4% | 19.6% | 16.8% | 31.7% |
カーブ | 31.5% | 2.0% | 17.2% | 16.5% | 32.7% |
カットボール | 23.2% | 2.9% | 16.1% | 18.1% | 39.7% |
スプリット | 34.7% | 1.7% | 18.1% | 13.5% | 32.1% |
※2018年MLBデータ
「外野フライ+ライナー」は安打や本塁打が生まれる可能性が大きいため、パーセンテージが低くなるにつれて投手にとってはポジティブになる。空振りを最も奪っている球種はスプリット。スライダーもスプリットに匹敵するほど、空振りの割合が高い。ツーシームは空振りが少ない一方で、極端にゴロが多いという特徴を持っていた。
一方で、速球の空振り割合はスプリットの約半数であった。速球は、空振りやゴロが少なく外野フライとライナーが多いという球種であった。このデータから、速球は失点のリスクが高い球種であるように感じる。
球種別の打球特性から見えること
ここからは打球に絞って、球種別の打球特性を見てみよう。これも投手にポジティブとなる場合を赤、ネガティブになる場合を青で示す。
球種 | 平均打球速度
(km/h) | 平均打球角度
(°) | 平均飛距離
(m) |
---|---|---|---|
速球 | 143.5 | 17.4 | 59.4 |
ツーシーム | 142.9 | 5.6 | 45.2 |
スライダー | 138.3 | 12.7 | 51.2 |
チェンジアップ | 137.2 | 8.5 | 47.1 |
カーブ | 139.7 | 9.3 | 49.3 |
カットボール | 139.0 | 12.3 | 51.2 |
スプリット | 138.4 | 6.1 | 44.6 |
※2018年MLBデータ
速球は他と比べて、打球速度・打球角度・飛距離ともに最も大きい球種となっている。つまり、打球となった際にも最もリスクが高い球種だった。
投球割合も多く、ピッチングの中心と言われる速球は、実は最も打たれやすい球種なのである。
速球は最もリスクが高いが…
ここまで、球種別のイベント割合・打球性質をみてきたが、速球は最も失点のリスクが高い球種という結果だった。では、速球は無意味なボールとして廃れてしまうのであろうか。
そんなことはない。確かに速球は、単一的な変数だけ見ると、打たれやすい球種なのかもしれない。しかし、多くの投手がピッチングの中心として使っているように、この速球があるからこそ他のボールが生きるのであろう。
スプリットのイメージが強い上原浩治(元巨人ほか)も、実は特異な球質なのはむしろ速球であった。速球は空振りこそ少ないが、ファウルが多い球種だ。打者に速球を意識させるような投球ができれば、落ちる変化球もより有効となるだろう。
参考:電撃復帰!上原浩治は巨人の救世主となるのか!「打たれない」140キロの秘密をトラックマンデータで徹底解析!
また、近年では「フライボール革命」が起こり、打球を持ち上げるような打撃が流行している。アッパースイングの打者が増加すると、スライダーやスプリットといった落ちる変化球は以前のように空振りを奪えなくなるかもしれない。
速球は高めにいくほど空振りが増える事も判明しており、今後は「高めの速球」がトレンドとなっていく可能性がある。
このように打者の方策が変わるにつれて、球種のトレンドも変化していく。データの普及により、有効なボールは常に変わっていくのだ。
Baseball Geeks編集部