「先発タイプ」ってなに?持ち球からその適性を考える
NPB、MLBともに今シーズンも全日程を終え、来シーズンに向けて、補強の時期となっています。新戦力の投手の選手評を見るたびに、「先発タイプ」「救援タイプ」といったように分類されていることも多いでしょう。
しかしながら、こんなことを思った方もいるのではないでしょうか。
「先発タイプって何?」
確かにそれらの定義は主観で決められているのではないでしょうか。
「先発投手の適性」とはいったい何なのか。
一要素で決められるものではないと前置きしつつも、今回は「持ち球」にフォーカスし、2017年のMLBのデータからその適性を探っていきたいと思います。
今シーズンMLBで、15試合以上に先発として登板した投手は155人で、本稿では先発投手の定義としました。
また、今シーズンの登板が50試合を超えた投手151人を救援投手と定義して、先発投手と比較しました。
多くの球種を投げる先発投手
まずは持ち球の「数」に注目していきます。
表1は、持ち球の数を先発投手と救援投手で比較したものです【表1】。
本稿では、2017年の各球種の投球割合が1%以上であった球種を持ち球と定義しています。
表1をみると、先発投手の平均した持ち球は4.7球種で、救援投手よりも約1球種も多いことがわかります。
球種数 | 先発 | 救援 |
---|---|---|
1 | 0% | 0% |
2 | 1% | 7% |
3 | 6% | 28% |
4 | 28% | 47% |
5 | 51% | 16% |
6 | 14% | 2% |
7 | 1% | 0% |
平均 | 4.7球種 | 3.8球種 |
救援投手は短いイニングの登板で、同一打者と何打席も対戦することは少ないため、得意な球種を次々と投げ込んでいけるのに対し、先発投手は打者に目を慣れさせないよう多くの球種を駆使して勝負しているのかもしれません。
裏をかえすと、救援投手は多くの球種を投球する必要がないのかもしれませんし、たくさんの球種を投げ分けられないので、得意球中心に短いイニングを任せられているのかもしれません。
日本人投手をみても、田中投手、ダルビッシュ投手、前田投手、岩隈投手といった先発投手の持ち球は皆5~6球種であったのに対し、救援投手である上原投手、田澤投手の持ち球は3~4球種でした。
NPBにおいても同様の傾向になるのか、あるいは少なくともMLBで先発投手として活躍するには、多くの球種を駆使することが、必要な能力の一つであったのかもしれません。
参考:電撃復帰!上原浩治は巨人の救世主となるのか!「打たれない」140キロの秘密をトラックマンデータで徹底解析!
使う球種は先発投手と救援投手で違う!
続いては、投手がどんな球を持ち球としているのかをみていきます。各球種がどれくらいの頻度としてそれぞれの投手の持ち球となっているのかを比較しました【表2】。
球種 | 先発 | 救援 |
---|---|---|
4シーム | 98% | 91% |
2シーム | 85% | 70% |
スライダー | 75% | 77% |
カーブ | 82% | 46% |
チェンジアップ | 90% | 60% |
カットボール | 34% | 22% |
スプリット | 8% | 10% |
表2をみると、4シームは先発投手、救援投手ともに9割を超える投手が投球しています。
MLB全体でも最も投球割合が高かった4シームですが、持ち球としてもほとんどの投手が投球していることがわかります。日本のファンの方にとっては、4シームが100%でないのは意外かもしれませんが、MLBの投手の中には、4シームを投球せず、2シームやカットボールを投球の中心としている投手もいるため、このような割合となっています。
一方変化球は、先発投手と救援投手で持ち球頻出割合に大きな違いをみせています。特に差が大きかった球種は、カーブ、チェンジアップでした。
両球種は先発投手の方が高い割合で持ち球としており、両群で30%以上も差が開いています。この両球種の特徴として挙げられるのは、「球速が遅い」ことです。
先発投手は、長いイニングを投球する能力が求められます。全力投球で100球を投球し続ける事は容易でないうえ、打者も2巡3巡とするうちにその投手のボールに目が慣れてきます。球が遅い球種を投球して球速帯の的を絞りにくくしたり、打者の打ち気を逸らしたりするために、球速の遅いボールを投球する投手が多いのでしょう。
また、カットボール、2シームも先発投手の方が高い割合で持ち球としています。カットボールはファール割合の高い球種、2シームはゴロ割合の高い球種です。先発投手は球速の遅い変化球だけでなく、高速かつ変化の小さな変化球も織り交ぜて、ファールでカウントを整えたり、早いカウントでゴロを打たせたりしているのでしょう。
参考:真っ向勝負は時代遅れ?球種別のイベントの特徴!
一方で、救援投手の方が多く持ち球としていた球種は、スライダーとスプリットでした。
この両球種は、「空振り割合が非常に高い」という特徴を有しています。
救援投手は短いイニングを任せられることが多く、一点も与えたくない場面や、すでにランナーをおいた場面での投球が多いのが特徴です。
打者がバットに当ててしまうと、アンラッキーでも失点する可能性があるため、バットに当てさせない意図で空振り割合の高い球種を投球する投手が多いのでしょう。
先発投手の適性とは
ここまで持ち球にフォーカスして先発投手の適性を探ってきましたが、ここまでの傾向をまとめます。
これらの傾向から、救援投手は自分の得意な球種を中心に積極的に空振りを狙いにいくことを目的にしているのに対し、先発投手は幅広い球速帯、多くの球種を組み合わせて的を絞らせず、長いイニングを投球することを目標としていることがわかります。
つまり持ち球から探る先発投手の適性とは、「幅広い球速の球種を、多く扱える能力」といえるでしょう。
それらの能力に加えて、救援投手のような空振りを奪う能力を持つ投手が一流の先発投手なのかもしれません。
今後は今回の傾向に反する「持ち球の少ない先発投手」や「持ち球の多い救援投手」にも注目してみたいと思います。
みなさんも、今後選手評を見る際には、「持ち球」にも注目してみてはいかがでしょうか。
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Baseball Geeks編集部