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プロ野球

星稜・奥川投手の球質を公開!プロ並みのストレートで高校生を翻弄!



目次
すでに「プロ級」な奥川投手のストレート!
プロ以上の球速と大きな将来性!
回転数ではボールの質がわからない?「ボール変化量」を解説
大投手を彷彿させる奥川投手の鋭い感性

全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)準優勝、WBSC U-18ワールドカップではベストナインと大活躍をみせた星稜高校の奥川恭伸投手は、間違いなく今夏の主役であった。

甲子園での智辯和歌山高校戦の23奪三振をはじめ、数々の名場面を生んだ奥川投手は、今秋のドラフト会議に向けて一層注目を浴びている。
今回は、トラッキングデータを使って奥川投手の凄さを紹介していきたい。

すでに「プロ級」な奥川投手のストレート!

今回は「ボール変化量」という指標を使って奥川投手の球質を紹介する。これは、ボールが「○○センチ曲がった」のように球質を客観的に表現できる指標である。詳しくは後述するとして、まずは奥川投手のデータを高校生やプロの投手たちと比較してみたい(図1)。

図1  ストレートのボール変化量比較

奥川投手のストレートはシュート成分とホップ成分が大きな球質である。高校生平均より約13センチもボールが上に到達するため、打者からすると見慣れているストレートよりもボール約2個分ノビてくるように感じる。すでにプロ投手平均を上回るホップ成分であり、甲子園で多くの三振を奪ったのも頷けるボールといえるだろう。
参考:金足農時代、吉田輝星投手の球質を公開!プロ投手を上回るホップ成分とは!

プロ以上の球速と大きな将来性!

ボール変化量からすでにプロ並の球質である事がわかったが、球速や回転数、回転軸も細かくみてみると奥川投手の凄さが更に際立つ(表1)。

表1 奥川投手の球質の特徴。回転数はプロ平均に及ばないものの、回転軸角度が非常に大きい
名前球速
(km/h)
回転数
(rpm)
回転軸角度
(°)
縦変化
(cm)
横変化
(cm)
奥川恭伸1472186814529
プロ平均 1452209704426

まず、球速が非常に高速で、すでにプロ平均を優に超えている。先発でこの球速で投球し続ける事ができれば、プロでも先発投手として活躍が期待できる投手であろう。また、最大の特徴はボールの回転軸にある。奥川投手のボールの回転軸角度は81°と非常に大きかった

回転軸角度が大きく綺麗なバックスピンに近いボールは、多くの揚力を獲得することが出来る。現状では回転数が低くホップ成分はプロ平均程度であるが、回転軸が非常に綺麗であるため、このまま身体の出来上がり球速や回転数が高まると非常に「ノビ」の大きなストレートを投球できるようになるだろう。

制球も良く完成度が高い投手と称されることも多い奥川投手であるが、ストレートに関してはまだ伸びしろを残した投手といえるだろう。より「ノビ」の大きな球質となる可能性を秘めており、プロでも多くの三振を奪える投手に成長していくかもしれない。
参考:“回転数多い=ノビのある球”ではない? データから迫る「ノビ」の正体

回転数ではボールの質がわからない?「ボール変化量」を解説

本稿ではボール変化量を使って球質を解説してきたが、球質を紐解くにあたり注目されているデータはボールの変化量ではなく「回転数」であろう。回転数ではなくボール変化量を使っている理由を解説したい。

一見、回転数が多いボールは「ノビるように感じるボール」という印象を持ちやすい。しかし、実は回転数の多さとボールの変化の大きさは一致するとは限らないのである。その理由はボールの回転軸の方向にあり、回転軸によって獲得する揚力の大きさが変わってしまう。
つまり、回転数「だけ」ではどんなボールかわからないのである。

一方で、ボール変化量は回転数や回転軸の影響を受けて「ボールがどれくらい変化したか」を直接計測している(図2)。

図2 ボール変化量の定義。実際の投球(黄線)が原点(青線)からどれくらい変化したかを示す

これは、重力の影響のみを受けてボールが到達した地点を原点としたとき、揚力の影響を受けてボールがどれくらい変化したのかを数値化した指標である。実際には浮き上がることはないが、ほとんどの投手のストレートは原点(図中青線)よりも左上に到達する(図中黄線との差がボール変化量)。
参考:メジャーリーグで投球される球質の特徴~ボール変化量とは~

このようにボール変化量では、ボールがどのように変化したのかを直接示すため、打者がどのように感じるかを客観的に表現できる。トラッキングデータの普及により、これらのデータは急速に広がりをみせている。ボール変化量を使って「球質」が当たり前に語られる日もそう遠くないだろう。

大投手を彷彿させる奥川投手の鋭い感性

今回は、測定したボール変化量のデータから星稜高校の奥川投手の凄さを考察してきた。世代ナンバーワンの呼び声にふさわしく、高校生離れした能力といえる。

ただし、筆者が感じた奥川投手の凄さは投球だけではない。データのフィードバックに対する感性の鋭さや自身の感覚を言語化する能力、そして貪欲に質問する姿は、すでにトップアスリートを彷彿させるものであった。奥川投手の次のステージでの活躍を祈念すると共に、星稜高校の堂々たる戦いに敬意を表したい。

引用
神事努(2013): プロ野球投手のボールスピンの特徴 . 日本野球科学研究会第一回大会報告集:24-26

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森本崚太 , Baseball Geeks編集部