【緊急企画】田中将大完全復活のカギ!
今回は日本人メジャーリーガー、田中将大投手(以下、田中投手)の最近のデータについてお伝えします。田中投手は、昨シーズンまでの抜群の安定感とは一変する投球を見せています。
前回Baseball Geeksでも紹介した開幕戦での投球(田中将大「"サイヤング賞"への道」)に代表されるように、早いイニングでの降板も目立っています。5月には2試合連続でKOされ、不振を心配する声も多く聞かれました。
参考:田中将大2017年開幕戦分析
しかし最新登板である5/26のアスレチックス戦では自身メジャー最多となる13個の三振を奪う投球をみせ、完全復活の兆しを見せ始めています。
本コラムでは、直近3試合(5/26現在)の登板を分析し、快投を見せた5/26の登板と、序盤にKOされた2試合(5/14、5/20)を比較し、今後の活躍のカギとなるポイントを探っていきます。
各球種の投球結果
速球系球種が威力を発揮せず
【表1】は、5月の全登板の成績です。スプリット、スライダーで高い空振り率を実現しているのに対し、4シームや2シームで空振りを奪えていません。
また、近年投球の中心となっていた2シームのゴロ割合が、MLB平均と比べて低値を示しています。
田中投手はゴロと空振りの両方を奪えるハイブリッドな投手ですが、速球系の球種が威力を発揮していないことが、打ち込まれてしまった原因の一つかもしれません。
球種 | スイング割合 (Sw Rate) | 空振り割合 (Whf/Sw) | ゴロ割合 (GB/BIP) | ライナー割合 (LD/BIP) | フライ割合 (FB/BIP) |
---|---|---|---|---|---|
4シーム | 46%
(46%) | 0%
(19%) | 25%
(36%) | 25%
(28%) | 25%
(27%) |
2シーム | 47%
(44%) | 7%
(13%) | 44%
(56%) | 25%
(24%) | 25%
(16%) |
スプリット | 63%
(53%) | 37%
(34%) | 58%
(52%) | 25%
(24%) | 17%
(19%) |
スライダー | 58%
(49%) | 51%
(36%) | 18%
(46%) | 45%
(25%) | 27%
(21%) |
カーブ | 26%
(40%) | 0%
(32%) | 33%
(51%) | 33%
(24%) | 0%
(20%) |
2017年5月成績 カッコ内はMLB平均
各球種の球速と投球割合(前回登板との比較より)
武器となるボールを多く投球!
【表2、3】の各球種の球速をみると、球速はあまり変わっていないことがわかります。スプリットは平均球速98%(メジャーリーグ平均92%)とメジャー屈指の速さで、4シームとの判断が非常に困難であることがわかります。
スライダーも平均球速94%(MLB平均91%)と高速で、この2球種の高い空振り率もうなずけます。しかし、前回2登板との差は小さく、他の球種の球速も変化していないため、打ち込まれた登板の原因は球速以外にあると考えられます。
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 146
(146) | 100
(100) | 150
(150) | 18
(15) |
2シーム | 145
(146) | 100
(100) | 149
(151) | 18
(22) |
スプリット | 143
(142) | 98
(97) | 144
(144) | 30
(19) |
スライダー | 137
(136) | 94
(93) | 141
(140) | 38
(37) |
カーブ | 123
(122) | 84
(84) | 123
(123) | 6
(4) |
5/26データ カッコ内は5/14,5/20
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 149
(149) | 100
(100) | 152
(151) | 18
(20) |
2シーム | 148
(147) | 100
(100) | 151
(151) | 18
(22) |
スプリット | 142
(142) | 98
(97) | 144
(144) | 30
(19) |
スライダー | 136
(136) | 93
(93) | 139
(139) | 28
(31) |
カーブ | 125
(124) | 86
(85) | 126
(129) | 8
(8) |
5/26 カッコ内は5/14,5/20
投球割合をみると、5/26の登板では2シームの割合が下がっており、スプリットの割合が大きく上昇しています。空振り率が高いスライダーとスプリット中心の組み立てとなっているといえます。
メジャーで年数を経る度に2シームの投球割合が増えていた田中投手ですが、今シーズンは思うような打ち取り方が出来ておらず、調子の良いボールを多く投球するとのシンプルな組み立てにしたことが、好投に繋がったのかもしれません。
各球種の変化量(前回登板との比較より)
対左打者への投球が大幅改善
5/26の登板ではボールの変化量に改善がみられました。特に左打者に対しては非常に効果的なボールを投球しています。球種ごとに細かく比べていきます。【図1、2】
※薄色はMLB平均
※薄色はMLB平均
- 4シーム
右打者に対してはほぼ同じ変化量でしたが、左投手に対してはホップ成分が大きくなっています。この4シームのホップ成分が大きくなったことにより、相対的に他の球種の変化をより大きく感じるようになったのでしょう。
しかしながら、昨シーズンはMLB平均を超えるホップ成分を記録しており、完全復活へ向けてより意識すべきポイントでしょう。
- 2シーム
右打者に対してはほぼ同じ変化量でした。左打者に対しては、ホップ成分シュート成分共に非常に大きくなっています。
4シームのホップ成分が大きくなったことにより、打者は2シームの変化を更に大きく感じるでしょう。
- スプリット
縦の変化はほぼ同じでしたが、シュート成分が小さくなっています。打ち込まれた2登板では、スプリットのシュート成分が大きく、2シームと近い変化となっていました。
5/26の登板においては両球種の変化を投げ分けることが出来ています。さらには、4シームのホップ成分が大きくなったことにより、打者は落差をより感じるでしょう。
田中投手の場合、多くの球種の球速が近いため、変化量の違いはポイントとなるかもしれません。
- スライダー
5/26の登板では、変化が小さくなっています。2シーム、スプリットが大きな変化となったため、カウントを整えたり、小さな変化でゴロを打たせるといった目的があったのかもしれません。
- カーブ
カーブはあまり投球していません。左打者に対してはやや小さな変化で投球しています。
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2303
(2272) | 33
(32) | 18
(18) |
2シーム | 1801
(2106) | 24
(23) | 40
(42) |
スプリット | 1783
(1546) | 8
(8) | 41
(44) |
スライダー | 2366
(2369) | 12
(4) | -2
(-8) |
カーブ | 2484
(2374) | -22
(-18) | -19
(-12) |
5/26 カッコ内は5/14,5/20
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2206
(2274) | 46
(42) | 30
(25) |
2シーム | 2055
(2046) | 27
(23) | 50
(41) |
スプリット | 1522
(1594) | 5
(6) | 34
(41) |
スライダー | 2355
(2361) | 15
(8) | -7
(-5) |
カーブ | 2493
(2378) | -13
(-22) | -18
(-21) |
5/26 カッコ内は5/14,5/20
左打者に対しては、ボールの変化が昨シーズンの状態に近づいてきています。しかし特に対右打者においては、未だ昨シーズンよりも4シームのホップ成分が小さい状態です。
4シームのホップ成分が大きくなれば、より他の球種も活きるでしょう。今シーズンは、速球系の球種であまり空振りを奪えていません。
4シーム、2シームの変化量は今後もポイントとなるでしょう。【表4、5】
各球種の投球フォームの特徴(前回登板との比較より)
プレート位置変更で光明!!
リリースの位置に大きな変化がみられました。リリース高は変わっていないものの、リリース横が大きくなっていることがわかります。これは田中投手がプレートを踏む位置を変更したからです。5/26の登板ではより三塁側から投球しています。
リリース横が変わると、打者に対してボールが向かってくる角度や向きが変わります。つまり同じ変化量でも、打者の感じ方は大きく変わります。
以前より三塁側から投球することで、右打者の外角への4シームや、スライダーが効果的になったと推察されます。
その分左打者へのシュート変化は感じにくくなりますが、田中投手の2シームはシュート成分が非常に大きいため、角度を付けずとも大きな変化を感じさせることが出来たのでしょう。【表6、7】
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 157
(158) | 75
(63) | 179
(179) |
2シーム | 159
(157) | 71
(53) | 173
(179) |
スプリット | 160
(160) | 72
(52) | 172
(172) |
スライダー | 158
(158) | 76
(64) | 170
(168) |
カーブ | 163
(163) | 69
(46) | 171
(155) |
5/26データ カッコ内は5/14,5/20
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 159
(159) | 74
(65) | 178
(178) |
2シーム | 159
(158) | 73
(57) | 177
(174) |
スプリット | 160
(160) | 73
(57) | 173
(175) |
スライダー | 158
(156) | 77
(66) | 169
(170) |
カーブ | 163
(160) | 74
(53) | 159
(167) |
5/26データ カッコ内は5/14,5/20
今後の活躍のカギ
田中投手の5/26の登板は素晴らしい内容でした。このような投球を続けることが出来れば、結果も自ずと付いてくるでしょう。そのために、今回のポイントを整理しておきます。
一つ目のポイント
田中投手の最大の武器であるスプリットです。このスプリットは球速が速い超高速スプリットです。
しかし、打ち込まれた試合においては、2シームとスプリットが似た変化になってしまっています。5/26の登板の左打者に対しての変化量をみると、明確に投げ分けられており、最大限に威力を発揮したことがわかります。
二つ目のポイント
4シームのホップ成分でしょう。田中投手はMLBでは決して球速の速い速球派ではありません。様々な武器を駆使して勝負するタイプです。昨シーズンはMLB平均を超えるホップ成分を記録していましたが、今シーズンは、4シームのホップ成分が小さい試合が多く、あまり空振りを奪えていません。また、相対的に2シームやスプリットの変化を感じさせることが出来ていませんでした。
5/26の登板のように4シームのホップ成分が大きくなると、より他の球種が活きるでしょう。4シームのホップ成分が大きい登板日は、腕を「縦振り」に近い形で投球しているため、スプリットのシュートが小さくなる可能性があります。
より武器を際立たせるためにも、大きなポイントになるでしょう。
三つ目のポイント
プレートの位置ですが、5/26の登板に近い位置の方が良いと考えます。田中投手の2シームはMLB平均を大きく超えるシュート成分を持っています。
プレートの一塁側から角度を付けずとも、充分に変化を感じさせることが出来るでしょう。
それよりも、3塁側から投球し、右打者の外角(左打者の内角)への4シームやスライダーの威力を高める方が、総合的に打者は打ちにくく感じるのではないでしょうか。
今シーズンここまで日本人投手はMLBで苦戦気味です。田中投手は本来の投球さえできれば、MLBでも屈指の投手です!日本人選手を勢いづけるような快投を今後も期待しています!!
参考:田中将大2017年分析 ~0.2%の魔球~
※先日お知らせ致しましたbaseballsavantのトラッキングデータリニューアルですが、データが正常値になった事が確認出来ました。それに伴い、ボール変化量の値に変更があります。後日、お知らせと、これまでの記事のデータリニューアルを行います。
Baseball Geeks編集部