ワールドシリーズでダルビッシュに何が起きたのか
球界は大谷翔平選手の移籍球団決定で盛り上がっていますが、この投手の去就も忘れてはいけません。今オフFAの目玉であるダルビッシュ有投手(以下、ダルビッシュ投手)です。
ダルビッシュ投手は今シーズン途中にレンジャーズからドジャースに加入し、優勝に大きく貢献しました。試行錯誤の末にフォームを改良し、終盤戦からポストシーズン前半にかけて圧倒的な投球を披露しました。
ワールドシリーズでも大きな期待を受け2試合に先発したものの、どちらも3回持たずKOという残念な結果に終わってしまいました。
そこまで好投続きだったダルビッシュ投手に一体何が起きたのでしょうか。そして来シーズンは変わらない活躍を見せてくれるのでしょうか。
今回はポストシーズン前半(地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ)と、ワールドシリーズでの登板を比較し、打ち込まれてしまった原因を探っていきます。
※ワールドシリーズ第7戦は一部データに異常がみられたため、本稿では第3戦のみを分析対象としています。
各球種の球速と投球割合
球速は高いものの…
表1、2に各球種の球速と投球割合を示しました【表1、2】。
最も大きな変化は投球割合です。ワールドシリーズでは制球に苦しんだ影響か、速球系球種が増え、変化球の割合が減っています。多彩な変化球を操るダルビッシュ投手らしくない投球割合となっています。何か速球系を多投しなければならない理由があったのでしょうか。
球種 | 平均球速 (km/h) | 平均球速 (%) | 投球割合 (%) |
---|---|---|---|
4シーム | 151 | 99 | 22 |
2シーム | 152 | 100 | 17 |
カットボール | 143 | 94 | 27 |
スライダー | 136 | 89 | 29 |
チェンジアップ | 142 | 94 | 2 |
カーブ | 120 | 79 | 3 |
球種 | 平均球速 (km/h) | 平均球速 (%) | 投球割合 (%) |
---|---|---|---|
4シーム | 154 | 100 | 20 |
2シーム | 151 | 98 | 31 |
カットボール | 144 | 93 | 18 |
スライダー | 134 | 87 | 29 |
チェンジアップ | 143 | 92 | 2 |
また、表2をみると、4シームの球速はワールドシリーズ登板時の方が速いことがわかります。一般的には、4シームの球速を調子のパラメータとしている投手は多く、「今日は球が走っているから調子が良い」という言葉もよく耳にします。
しかしダルビッシュ投手に関しては、必ずしも4シームの球速が調子のパラメータとはならないのでしょう。
各球種のスピンレートとボール変化量
ボール変化量に異変
続いて最も影響の大きかったボール変化量を見てみます【図1、2】。
すべての球種のボール変化量に大きな差がみられ、全体的によりボールがシュートし、沈んでいることがわかります。
最も大きく変わってしまったのが、スライダーです。スライダーはダルビッシュ投手最大の武器です。MLB平均の横変化(12cm)に対し、ポストシーズン前半は3倍以上も横に変化しています。
しかしながら、ワールドシリーズでは10cm近くも横変化が小さくなっています。さらに、カットボールの変化もスライダーに近い変化になってしまっています。
以前コラムでも紹介しましたが、アストロズの世界一に貢献したバーランダー投手は、「変化の差」を生み出して成績を好転させました。
アストロズ世界一の立役者! J. バーランダーは如何にしてモデルチェンジしたのか。
ワールドシリーズでは、スライダーの変化が小さくなっただけでなく、カットボールとも変化が近くなり、「変化の差」がなくなってしまいました。打者は尚更スライダーの変化を感じなかったのかもしれません。
また、2シームの変化も大きく変わっています。
平均的な変化量であった2シームは、ワールドシリーズでは大きく沈んでいることがわかります。ボールの性質自体は、よりゴロを打たせやすい球質となっていますが、2シームも、カットボールやスライダーとの「変化の差」がなくなり、思うように威力を発揮しなかったのかもしれません。
投球の軸であるこれらの球種が大きく変わってしまったことが、ダルビッシュ投手が打ち込まれてしまった要因といえるでしょう。投球割合が大きく変わってしまっているのも、思うような変化をみせないボールが理由なのかもしれません。
なぜボールの変化が変わってしまったのか
好調であったダルビッシュ投手のボールは、なぜこのように全く違う変化となってしてしまったのでしょうか。
まずはリリース高に注目します。今シーズン途中で、ダルビッシュ投手はフォームをモデルチェンジしました。その影響があったのでしょうか。
表3にポストシーズン前半とワールドシリーズのリリース高の比較を示しました【表5】。
球種 | ポストシーズン前半 | ワールドシリーズ |
---|---|---|
リリース高 | 167 | 167 |
表3をみるとリリース高は変わっていません。
つまり以前のフォームに戻ったわけではなく、他に影響があったとみて良いでしょう。
では原因は何か、それはボールの回転にありました。スピンレートを見ると、わずかながら全球種で回転数が減っています【表4、5】。
球種 | スピンレート (rpm) | 縦変化 (cm) | 横変化 (cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2563 | 42 | 12 |
2シーム | 2304 | 26 | 35 |
カットボール | 2716 | 16 | -12 |
スライダー | 2704 | 3 | -42 |
チェンジアップ | 1687 | 20 | 30 |
カーブ | 2632 | -33 | -31 |
球種 | スピンレート (rpm) | 縦変化 (cm) | 横変化 (cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2497 | 41 | 19 |
2シーム | 2194 | 15 | 36 |
カットボール | 2664 | 10 | -7 |
スライダー | 2648 | -1 | -33 |
チェンジアップ | 1564 | 14 | 35 |
ワールドシリーズでは、回転が減ってしまった結果、変化が小さくなってしまったのです。MLBでも屈指の回転数を誇るダルビッシュ投手は、球速よりも、回転数やボールの変化が調子のパラメータとなるのでしょう。
来シーズンのダルビッシュはどうなるのか
ダルビッシュ投手はフォームではなく、ボールの回転が変わったことによって本来の力が発揮できませんでした。では来シーズンはどうなってしまうのでしょうか。
心配いりません。ダルビッシュ投手やバーランダー投手がインタビューでも答えていたように、ワールドシリーズでの使用球は非常に「滑る」ボールだったようです(未検証)。滑るボールを無理に投球しようとした結果、回転の軸も変わりボールの変化にも影響を与えた可能性もあり、ダルビッシュ投手のようにボールに回転を多くかけるタイプの投手には不運なワールドシリーズであったかもしれません。
残念ながら世界一とはなりませんでしたが、来シーズンには更にレベルアップした投球を見せてくれるでしょう。所属球団はまだ決まっていませんが、どの球団にとっても非常に大きな戦力になるに違いありません。「世界一の投手」を目指すダルビッシュ投手の投球に来シーズンも注目です。
参考:「ダルビッシュ、田中将大、上原浩治のストレートは変化球?」データで分析
Baseball Geeks編集部