投手・大谷翔平の2018年シーズンを球質データで紐解く!
開幕前の予想を覆し、見事新人王に輝いた大谷翔平。「投手」としては4勝という成績をマークした。しかし、シーズン中には右肘靭帯損傷が発覚。トミージョン手術を行ったことで、残念ながら来季は打者専念がほぼ決まった。
今回は大谷の成績振り返るとともに、その「球質」を分析し、復帰後の投手としての可能性を考えていきたい。
サイ・ヤング賞投手の資質あり?
まずは、大谷はどんなタイプの投手であるのかをみていきたい。投手のリスク割合というデータをみてみる(図1)。
投手は打者に対峙したとき、三振、エリア内打球(内野フライ、ゴロ、外野フライ、ライナー)、本塁打、四死球のいずれかのイベントが発生する。イベントによってアウトを獲得できる割合は異なり、三振やゴロといったイベントが多い投手は失点のリスクが低いといえる。
参考:イベントのリスクからみる野球の本質
大谷のデータをみると、メジャー平均と比べて非常に高い完全アウト割合を記録している。
この割合が大谷を超える投手はメジャー全体を見回しても11人しかおらず(先発で50イニング以上投球の180投手中)、それら投手をみると、デグロム(メッツ)、スネル(レイズ)の両サイヤング賞投手たちや、バーランダー(アストロズ)、シャーザー(ナショナルズ)といったメジャーを代表する投手たちが並ぶ。大谷の三振を奪う能力はトップレベルの投手に遜色なく、メジャーを代表する投手になれるポテンシャルを有するといっても良いだろう。
参考:大谷翔平とサイ・ヤング賞投手たちをデータで徹底比較
圧倒的な空振り割合を誇るスプリット
球種毎の空振り割合をみると全球種で平均以上の空振りであり、特にスプリットは非常に高い空振り割合を記録している(表1)。
半数近い投球割合である速球を中心に、決め球のスプリットを駆使して三振を量産するのが大谷のスタイルといえる。
球種 | 空振り割合 (%) | 投球割合 (%) |
---|---|---|
速球 | 20 (18) | 46 |
スプリット | 56 (35) | 22 |
スライダー | 39 (34) | 25 |
カーブ | 31 (31) | 7 |
カッコ内はメジャー平均
速球の球速が最大の特徴!
速球やスプリットを中心に三振を量産していた大谷であるが、それらは「どんなボール」だったのか。まずは各球種の球速データをみていく(表2)。
球種 | 平均球速 (km/h) | 平均球速 (%) | 最高球速 (km/h) | 投球割合 (%) |
---|---|---|---|---|
速球 | 156 (150) | 100 (100) | 163 | 46 |
スプリット | 140 (137) | 90 (91) | 149 | 22 |
スライダー | 131 (136) | 84 (91) | 138 | 25 |
カーブ | 119 (126) | 76 (84) | 128 | 7 |
カッコ内はメジャー平均
最大の特徴は速球の球速だ。大谷の速球は先発ながら平均156キロと超高速であり、最高球速も163キロよりも速い投手は全投手の中でも5人しかいなかった。
球速は速くなればなるほど、打者は判断する時間が短くなり空振りが増加する。打者は速球を意識せざるを得なく、変化球の威力も高まっていく。代名詞とも言える球速は、メジャーでも大きな武器となっている。
一方、長期離脱後の復帰登板で今季最終登板となった9月3日のアストロズ戦では、球数が増えるにつれて球速が低下し、平均球速は153キロであった。リハビリ後に球速を取り戻せるかは今後の大谷にとって大きなポイントとなるだろう。
また、変化球の球速は平均を下回る。変化球の球速が速球の球速に近づくと軌道が速球と近くなり、打者は手元で変化するように感じやすい(厳密には手元で曲がることはないが)。メジャーリーグではこのように途中まで同じ軌道(トンネル)を通る組み合わせを「ピッチトンネル」と呼び、投手たちはピッチトンネルを構成する投球を目指している。大谷の変化球は既に空振り割合が高く、球速が速球に近づくと、さらに打者が打ちにくくなるかもしれない。
速球のホップ成分は平均的!スプリットは真縦に沈む!?
続いて「ボール変化量」という指標を使って球質を分析していく。
これはこれまで主観的だった「球質」を「ダルビッシュのストレートはシュート成分が〇センチだ」のように客観的に表現できる指標だ。
参考:メジャーリーグで投球される球質の特徴
大谷の今季の全投球のボール変化量と、メジャー平均(灰色丸)を重ねてみる(図2)。
まずは速球に注目する。大谷の速球は、メジャー平均と比べるとシュート成分の少ないカット系の球質である。速球のホップ成分は平均的で、いわゆる「ノビ」が大きな球質ではない。あまり空振りを量産できる球質ではなく、圧倒的な球速で勝負するタイプの速球といえるだろう。
スプリットの落差は非常に大きい。また、一般的な投手のスプリットは自身の速球よりもシュート成分が大きいが、大谷のスプリットはほとんど変わらず真縦に沈むような変化になっている。スライダーやカーブの変化量も特徴的で、球速が遅くとも空振りが多い所以であろう(表3)。
球種 | 回転数 (rpm) | 縦変化 (cm) | 横変化 (cm) |
---|---|---|---|
速球 | 2164 (2263) | 41 (40) | 16 (19) |
スプリット | 1305 (1429) | 6 (12) | 14 (28) |
スライダー | 2319 (2394) | 5 (4) | -38 (-14) |
カーブ | 2360 (2494) | -39 (-23) | -28 (-24) |
カッコ内はメジャー平均
投手大谷の飛躍に向けた3つポイント
ここまで大谷の成績と球質をみてきたが、三振を奪う能力が非常に高く、メジャーを代表する投手になる資質は持っている。そこで、復帰後さらに飛躍するためのポイントを考えたい。
1、速球の球質改善
先発投手としての速球の球速はメジャーでもトップクラスであり、大きな武器となる。球質がより「ノビ」のある球質となれば速球の空振りはさらに増加するだろう。ホップ成分の大きな速球を投球するには「回転軸」をきれいなバックスピンにする必要がある。リハビリ期間はフォームやリリースを見直す絶好の機会でもある。復帰後の球質を楽しみにしたい。
2、変化球の球速アップ
先述したように大谷の変化球は速球との球速差が大きい。すでに変化球の球質に特徴を持つため、球速がさらに高まり速球の軌道に近いような変化球となれば鬼に金棒だろう。
たとえば田中将大のスプリットは、速球比94%~95%の球速で投球するためピッチトンネルを構成しやすく、打者は球種の判別が非常に困難となる。大谷ほどの速球の球速でピッチトンネルを構成したならば、もはや決め球ではなく「魔球」と呼ばれる日も遠くないだろう。
3、ゴロを打たせるボールの習得
年間通して長いイニングを投球する投手を目指す上では、早いカウントでゴロを打たせるのも有効だ。今後目指す投手像にもよるが、サイヤング賞投手は三振もゴロも両方奪えるハイブリッドなタイプの投手が多い。どのような投手になるかにあたって注目のポイントかもしれない。
シーズン前、ここまでの活躍を予想したファンも多くないだろう。残念ながら来シーズンは「打者」大谷しか見られないが、復帰した暁には投手としてもまだまだ多くの可能性を見せてくれることにも期待したいと思う。
Baseball Geeks編集部