岩隈久志「日本人投手の”道標”」
- 目次
- 2017年4月9日ロサンゼルス・エンゼルス戦
- 各球種の球速と投球割合(昨シーズンとの比較より)
- 各球種の変化量(昨シーズンとの比較より)
- 各球種のフォームの特徴(昨シーズンとの比較より)
- 各球種のカウントとゾーンの特徴(昨シーズンとの比較より)
- 2017年飛躍のポイントを探る
- あとがき
前回に引き続き、岩隈投手を特集します。前回は岩隈投手の2016年データを分析し、活躍の秘密に迫りました。(岩隈久志投手2016分析)
今回は、岩隈投手の今シーズンのデータを分析し、昨シーズンと比較しました。
2017年4月9日ロサンゼルス・エンゼルス戦
今回は、岩隈投手にとって今シーズン2試合目の登板となった4/9のエンゼルス戦のデータを分析しました。この日、岩隈投手は6回2安打1失点と素晴らしい結果を残しました。
リリーフ陣が9回に7失点を失い大逆転負けを喫したことで、今シーズン初勝利を挙げることは出来ませんでしたが、抜群の安定感は今シーズンも健在であることをみせてくれました。
各球種の球速と投球割合(昨シーズンとの比較より)
今年も高速スプリットは健在!!
【表1、2】の平均球速(km/h)をみると、4シームと2シームの球速は昨シーズンとほぼ同じでした。
前回岩隈投手の武器として高速な変化球を紹介しましたが、スプリットを除く変化球の球速がやや遅くなっています。スプリットは今年も健在で、昨シーズンよりもさらに高速な変化球となっています。
投球割合をみると、スプリットが非常に多いことがわかります。今年も岩隈投手の投球の中心となるボールでしょう。
また昨シーズンは様々な球種を投げ分けて打ち取っていました。その日の調子を見極めて調子の良いボール中心に様々な組み立てが可能なことも岩隈投手の大きな武器といえるでしょう。
やや気になる点を挙げるとするならば、4シームと2シームの投球割合が大きく下がっている点です。高速な変化球が有効な理由は4シームと見分けが難しい点にあります。4シームや2シームを織り交ぜることで変化球の威力がより高まるかもしれません。
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 139
(142) | 99
(100) | 139
(147) | 3 |
2シーム | 141
(141) | 100
(99) | 143
(147) | 14 |
カットボール | 129
(138) | 92
(97) | 136
(146) | 28 |
スプリット | 135
(134) | 96
(94) | 138
(147) | 39 |
スライダー | 125
(132) | 89
(92) | 127
(143) | 5 |
カーブ | 113
(115) | 80
(81) | 120
(123) | 11 |
カッコ内は昨シーズンデータ
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
2シーム | 140
(141) | 99
(99) | 140
(148) | 12 |
カットボール | 130
(139) | 93
(97) | 132
(146) | 16 |
スプリット | 133
(134) | 95
(94) | 138
(139) | 60 |
カーブ | 112
(114) | 80
(80) | 112
(123) | 12 |
カッコ内は昨シーズンデータ
各球種の変化量(昨シーズンとの比較より)
変化を調整!ハイレベルな投球術
昨シーズンデータと今シーズンデータをくらべてみます。ボールの変化量は対右打者と対左打者で大きく変わっています。【図1、2、3、4】
※薄色は各球種のMLB平均
※薄色は各球種のMLB平均
球種ごとに細かくみていきます。【表3、4】
- 4シーム
昨シーズンとほぼ同様の変化量です。投球割合が大きく下がり、左打者には投球しませんでした。
- 2シーム
右打者に対しては、ほぼ昨シーズンと同様でした。左打者に対しては昨シーズンに増して沈みながらシュートするボールとなっています。
- カットボール
右打者に対しては昨シーズンと比べて大きく沈んでいます。スライダーに近い変化量といえます。昨シーズンは変化の小さなボールでしたが、大きなサイドスピンをかけることで変化が大きくなり球速が低下したと推察されます。
左打者に対してもやや沈んでいます。2シームとホップ成分が近いことも特徴です。
- スプリット
右打者に対しては縦の変化量が減り、メジャーリーグ平均とほぼ同じ変化量になっています。左打者に対しては、縦の変化量は昨年と同様で、シュート方向の変化は増えています。逃げながら落ちるボールで空振りを狙っています。
岩隈投手はおそらくゴロ打たせるスプリットと空振りを奪うスプリットを投げ分けているため、この試合はこのような数値としてあらわれたのでしょう。非常にハイレベルな投球術といえます。
- スライダー
右打者にのみ投球しています。昨シーズンよりも沈むボールとなっています。
- カーブ
対右打者、対左打者ともに横の変化がやや小さくなっています。
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2248
(2253) | 41
(45) | 31
(23) |
2シーム | 2165
(2159) | 29
(34) | 41
(38) |
カットボール | 2234
(2275) | 10
(32) | 2
(2) |
スプリット | 1901
(1613) | 22
(20) | 41
(29) |
スライダー | 1052
(2264) | 4
(13) | -8
(-5) |
カーブ | 2273
(2413) | -16
(-15) | -20
(-17) |
カッコ内はMLB平均
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
2シーム | 2082
(2159) | 20
(34) | 50
(38) |
カットボール | 2202
(2275) | 19
(32) | 7
(2) |
スプリット | 1814
(1613) | 12
(20) | 47
(29) |
カーブ | 2172
(2413) | -22
(-15) | -24
(-17) |
カッコ内はMLB平均
前回、岩隈投手の変化量はサイドスロー型であるのに対して、スプリットが大きく沈むことは武器であると紹介しました。今シーズンの投球ではスプリットに関してもう一つ注目すべきポイントがあります。
【図2、4】をみると、スプリットの円が大きいことがわかります。
図の球種の円の大きさは変化量のばらつきを示しています。つまり円が大きいと同一球種内でも変化量に違いがあるということです。岩隈投手はおそらくスプリットの変化量を意図的に変化させているため円が大きくなります。
そこで変化の小さなスプリットは2シームと変化量が近いと予想されます。
変化量が近いあるいは同じボールは、投球された瞬間に球種を判断することが難しくなります。似た変化で違う球速や回転で投球されるため、打者は捉えるのが容易でなく、一つの大きな武器となっているといえます。
各球種のフォームの特徴(昨シーズンとの比較より)
エクステンションに変化!
リリース高やリリース横は変わらず、安定したフォームといえます。一方で昨シーズンと比べてエクステンションが短くなっています。
岩隈投手は長い手足を活かしたフォームで、スリークォーターのフォームにもかかわらずエクステンションが長いことが特徴でした。
しかし今シーズンはややエクステンションが短くなっており、MLB平均よりも短い値となっています。(4シームのメジャーリーグ平均は188cm)【表5、6】
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 164
(166) | 69
(71) | 177
(190) |
2シーム | 165
(167) | 73
(72) | 182
(191) |
カットボール | 170
(167) | 75
(72) | 174
(186) |
スプリット | 168
(170) | 71
(70) | 182
(186) |
スライダー | 172
(169) | 71
(72) | 173
(184) |
カーブ | 179
(180) | 69
(65) | 177
(181) |
カッコ内は昨シーズンデータ
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
2シーム | 165
(167) | 76
(73) | 181
(191) |
カットボール | 168
(168) | 73
(73) | 178
(186) |
スプリット | 167
(170) | 74
(72) | 183
(186) |
カーブ | 179
(182) | 72
(69) | 173
(180) |
カッコ内は昨シーズンデータ
各球種のカウントとゾーンの特徴(昨シーズンとの比較より)
今年も精度の高さは健在
今シーズンは昨シーズンにも増してスプリットを多く投球しています。特に左打者に対しては、全体の60%の割合で投球しています。
投球されるゾーンは低めに徹底されており、落差も大きいスプリットを攻略するのは容易ではありません。【図5、6】
2017年飛躍のポイントを探る
開幕して2週間となりました。日本人投手が軒並みまだエンジンがかかりきらない中、岩隈投手は抜群の安定感を活かして好投を続けています。36歳を迎えベテランとなった岩隈投手ですが、チームには欠かすことのできないゲームメイカーです。分析した試合においても持ち味をいかんなく発揮しました。
今シーズンの更なる飛躍に向けて、ポイントをあげるとすれば、4シームかもしれません。この試合ほとんど投球することのなかった4シームですが、岩隈投手の武器を活かす上で非常に重要なボールだと考えます。
岩隈投手の武器は、高いコマンド能力とゲームメイク能力です。低めにボールを集め、スプリットを武器に、狙ってゴロで打ち取ったり、空振りを奪うことができます。全体的に沈むボールが多いのが特徴ですが、その落差をより感じさせるには4シームが重要でしょう。
メジャーリーグでは、リーグ本塁打数が増加傾向にあります。岩隈投手も昨シーズンは自己最多の被本塁打を献上してしまいました。低めの沈むボールだけで抑え込むのが難しくなってきており、より低めの投球を活かす投球がより必要とされてきています。
岩隈投手のスプリットは非常に大きく変化します。厳しいコースに制球出来るこのボールは非常に大きな武器です。4シームのホップ成分がより大きくなれば、相対的に落差を感じてさらに威力を発揮するでしょう。
参考:岩隈久志2017年分析 ~復活までの道のり~
あとがき
岩隈投手の分析を2回にわたって行ってきましたが、メジャーリーグでの活躍も納得するほどのハイレベルな投球をしています。
岩隈投手は4シームに近い動くボールに加え、大きな変化のスプリットも操ります。球速こそ速くないものの、意図的に変化量を調整するなどして狙ってゴロや空振りを奪います。高いコマンド力を活かして丁寧にコーナーに投げ込むピッチングはメジャーでも屈指のゲームメイカーたる所以でしょう。
クレバーで緻密な投球はまさに日本人が手本とすべき投球術なのではないでしょうか。
繊細な感覚をもち、高い技術を活かした精密なピッチング。岩隈投手の投球術は、今後次々と海を渡るであろう日本人投手の大きな"道標"となるでしょう。
150キロの速球はなくとも、非常に緻密で知れば知るほど奥が深い岩隈投手の投球術。今年もGeek達を唸らせる投球に期待しています!!!
※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)
Baseball Geeks編集部