メジャートップアナリストが集結した野球データセミナーに参加してみて
アメリカで毎年8月に開かれている、野球データのセミナー「Sabermetrics, Scouting, and the Science of Baseball」(Sabermetrics, Scouting, and the Science of Baseball)が今年もボストンで開催された。このセミナーはアメリカの野球データサイト「Brooks Baseball」の管理者であるDan Brooksが主催するもので、毎年約200名の参加者がアメリカ全土からやってくる。セミナーの大きなテーマは「野球×データ」だ。セイバーメトリクスはもちろんのこと、統計学、医学、スポーツ科学、メディアに関してなどその発表テーマは多岐にわたる。
登壇者もまた様々で、メジャーリーグの球団関係者、例えばレッドソックスのピッチングコーチやアナリストといった普段お目にかかれないようなチームの運営側の人たちが、実際にどのようにデータを活用しているかを話してくれる。また、大学の研究者や野球のデータ分析をテーマとして学んでいる大学生らにとっては、それぞれの研究成果を発表する場でもある。さらに、普段TVで野球の実況を行っている解説者が参加するなど、野球に関わる様々な人が集まり、議論できる場がこのセミナーなのだ。
セミナー1日目のプログラム(SaberseminarSaturday)
Baseball Geeks編集部は、「Our Japanese Approach to Improve Pitcher Skills Utilizing Tracking Data」と題し、トラッキングデータの日本での活用状況を紹介した。さらに、まだまだメジャーでも広まっていない、選手自身が自らデータを使ってセルフコーチングをする方法についての新たな考え方を提案した。
セミナー2日目のプログラム(SaberseminarSunday)
イリノイ大学のAlan Nathan率いる研究チームは、「Explaining the Home Run Surge: The Commissioner's Report」と題し、ホームラン急増の理由を物理学的に説明した。メジャーリーグで2014年から急増しているホームランだが、ボール自体が飛ぶボールに変化したのだというのだ。彼らの研究によると、最近のボールは以前のものと比べると打球の飛翔中の抗力が減少しており、空気抵抗を受けないボールになったようだ。ただし、ボールの表面や縫い目の高さは変わっていないため、なぜ抗力が減少していたのかはわからないそうなのだ。
バレルという指標の出現により、ゴロよりもホームランをねらってより効率的に得点につなげようとする選手が増えていると同時に、ボール自体も飛びやすくなっていたという非常に興味深い研究だった。
メジャー注目の「ピッチトンネル」
さらに、今回の発表テーマで多かったのは「ピッチトンネル」という考え方についてだ。これは、打者が球種の違いを認識しづらくなるように、異なる球種を途中まで同じような軌道で投げる(ピッチトンネルを通す)という考え方。これを意識して、球種や投球コースを選択する傾向が強まっており、そのトレーニング方法が模索されているようだった。
A little sneak preview of what we have in store for tomorrow morning's presentation at @SaberSeminar
"Experimentally Determining The Commit Point: Evaluating The Time It Takes A Hitter To Check His Swing" pic.twitter.com/bxK3qgtOX0
— Diamond Kinetics (@DiamondKinetics) 2018年8月3日
「Experimentally determining the "Commit Point" - Evaluating the time it takes a hitter to check his swing」打者がスイングを認識するのにかかる時間を評価する実験。Diamond kinetics社
セミナーには、野球に関わる様々な人が集まっていた。それぞれ立場の違いはあれども、野球が好きで野球界を盛り上げたい!という者同士の熱い議論がみられた。セミナー後は自由に意見交換をしたりと穏やかな雰囲気で、そういった場を意図的に設けている主催者側の配慮にも心打たれた。今回は改めて「野球×データ」で野球をもっと面白くし、野球ファンの裾野を広げていきたいと強く感じさせられたセミナーだった。
Baseball Geeks編集部