
【スイング速度アップ!】ヒッティングバイオメカニクス スイング速度を高めるフォーム(ヒントは胸と腰)

皆さんはヒッティングバイオメカニクスという言葉を聞いたことがあるだろうか。
今回はそのヒッティングバイオメカニクスの観点から、スイング速度を上げるためにはどのように身体を使うと良いのかについて話していく。
神事:ネクストべース神事です。
森本:ネクストベース森本です。よろしくお願いします。以前こちらでピッチングの動作分析「ピッチングバイオメカニクス」をお送りしましたが、今回はヒッティング編です。ヒッティングもピッチングと同様に、このラボに来れば動作分析ができるということですね?
神事:そうですね。モーションキャプチャーのシステムを使ったり、フォースプレートを使ったりして、力学的に体の動きを計測してトレーニングに結びつけていくことができます。
森本:そして今日はヒッティングバイオメカニクスを主に担当されているアナリストのニローシャンさんに来ていただいています。今回はニロさんとお呼びします。まずはプロフィールを紹介します。スリランカ出身でモラトゥワ大学を卒業後、スリランカの民間企業で働いた後に国費留学生として2016年に来日しています。宮崎大学で博士号を取得し、その後ネクストベースに2022年より入社しています。また野球選手としても活躍していて、2010年には世界大会スリランカ代表選手として日本で大会に出ているということですね。

ニロ:初めて野球選手として国際大会に参加したのが2010年の大学選手権大会で、それが東京開催でした。
神事:僕は撮影しに行きました。デスパイネとセスペデス。その中にニローシャンもいたわけですね。
ニロ:そこからまたスリランカに戻ったんですけど、世界のレベルを見たことで南アジアの野球がどのように発展できればいいかと考え、研究者として研究をしたいと考えるようになりました。ちょうど2020年にオリンピックもあることを考えたところ、日本はスポーツの研究が多いんじゃないかなと思い、そこで日本で研究者として勉強していきたいと考えました。
森本:ニロさん自身のポジションはどこだったんですか?
ニロ:中学から野球を始めて最初は外野手だったんですけど、16歳くらいからファーストを守るようになりました。左利きだったのでファーストしかありませんでした。
神事:打つ方はすごかった?
ニロ:スリランカのレベルの中では悪くなかったです。
森本:スリランカというとクリケットのイメージが強いんですけど、野球はどのくらい盛んなんですか?
ニロ:スリランカの野球の歴史はそんなに長くないです。初めは1985年にスリランカに野球が導入されました。2000年に日本のJICAというボランティアとしてきてくれた監督さんにスリランカで野球を広めるために手助けをしてもらったり、道具を買える場所もないので日本から寄付してもらったりして、スリランカの野球が始まりました。
ヒッティングバイオメカニクスとは
森本:そもそもヒッティングバイオメカニクスはどういったことができるんですか?
ニロ:ピッチングバイオメカニクスと同じく、スイングする時の体の動作を評価することができます。
森本:どこに着目して分析をするんですか?
ニロ:良いバッターになるためには3つの能力が必要です。1つ目はスイングスピード、2つ目がバットとボールを当てるコンタクト率、3つ目が打つべきかどうかを決めるためのスイング判断能力。その3つの中でスイング速度を高めるために身体の動作はどれが一番良いのかを評価するのが、ヒッティングバイオメカニクスの目的です。

森本:スイング速度を高めるとどんな利点がありますか。
神事:打球が速くなるので、ヒットになったり長打になったりして、結果的に得点が向上するというのが直接的な効果になると思います。また、スイングの速度が速くなると先ほどニロさんがおっしゃっていたようにボールを判断する能力に関してもスイングの時間が短くなるので、より長くボールを見れるというメリットもあります。
スイング速度を高めるポイント
ニロ:ヒッティングバイオメカニクスのデータを評価するときには、身体のエネルギーをスイング動作で評価します。スイング動作の中で身体のエネルギー量が1番高まるポイントは胸郭です。特に胸郭(体幹)のエネルギーが、スイング速度に大きな影響を与えます。
森本:このエネルギーはピッチングバイオメカニクスの際にも神事さんが紹介しました。
神事:そうですね。エネルギーの中身を見てみると並進のエネルギーと回転のエネルギー、位置のエネルギーがあり、この3つを合わせるとエネルギーの総量になります。その中でもピッチングに関しては並進のエネルギーが非常にボール速度に関係しています。他にもピッチングだと、大きなエネルギーを持ったものを手先に流していってボールの速度を速くさせることがあります。体幹のエネルギーを大きくし、それを上腕→前腕→手→ボールという形で、エネルギーを順次流していくことがピッチングの大きな特徴です。
森本:ピッチングだとエネルギーが順次伝わっていくというのがありましたが、ヒッティングでは何か違いはありますか?
ニロ:プロレベルの選手のデータをみると、身体の体幹と上腕、前腕、手のエネルギーのピークは近くにあります。

ニロ:このグラフ(写真3)では1番上のオレンジ線が胸郭のエネルギー量でその下には前腕、手、上腕、骨盤のエネルギー量となっています。各部位のエネルギー量が最大になるのが、ほとんど同じタイミングです。
神事:これがうまくない人だとちょっとずつずれてきたりとか、胸郭のエネルギーが大きくならないということが出てくるんですね。
森本:具体的には踏み込んでからインパクトに行くまでのどのあたりがピークになるんですか。
ニロ:前足の力がピークになる瞬間の少し後くらいがエネルギーが最大になるところです(写真4)。

森本:胸郭のエネルギーが最も大きいということですが、胸郭にエネルギーを伝えるために重要なポイントや部位はありますか?
ニロ:胸郭と骨盤のエネルギーを増やすことがスイング速度を高めるためにとても大事なポイントです。しかし骨盤から胸郭までエネルギーを伝達するよりも、1つの剛体的なものとして身体を動かすことがバットにエネルギーを伝達するためには重要です。
神事:先ほど剛体という話をしましたけど、一枚の板ぺらみたいなのが回転していくイメージの方が良いということですね。
ニロ:はい。例えば、骨盤に対して胸郭を捻った状態でさらに胸郭に対して手を捻った状態の姿勢をどんどん同じように進めていくと、それが剛体的に体を動かせるということになります。これを動かすためには骨盤を回転させるということが非常に重要です。
骨盤をすばやく回転させるポイント
ニロ:下半身を使ってスイングしましょうとよくいわれますが、これは骨盤を回転させるために両足から力を出すのが非常に重要です。骨盤のエネルギーを増やすためには特に前足を踏ん張ることで体を回転させることができます。しかし前足を強く踏ん張るためには後ろ足から力を出し続けることが必要で、体の重心が後ろ足に残ったまま前足を踏み込むことが重要です。そこで身体を回転させるための力の方向も重要になってきます。

ニロ:それはフォースカップル(偶力)というこの方向です(写真5)。このような形で体を動かすことが大切です。

神事:これをみると綺麗に(前後の足が)同期的に鏡を使った形になっていて、これだと完全に両足の動きでバットを加速できますね。これがずれてしまうと良くないです。
ニロ:後ろ足のグラフ(力)がすぐなくなる選手も結構います。これも勿体無いですね。
神事:後ろに残せ理論と前足に荷重だという2つの指導がありますが、実は前足に荷重しながら重心を後ろに残すということをしている。つまり本来は両方正しくて、前足で踏み込みつつ後ろ足に重心を残すのが大事です。
ニロ:重心が前にいきすぎると、大きい力で踏ん張るためにどうしても前足から身体を後ろに押す形になります。そうするとスイング軌道はかなりブレます。なので、安定した体幹に対して同じ軸から身体を回転させることが非常に重要ですね。
神事:後ろ足が浮いてしまう選手もいるじゃないですか。イチロー選手もそうですけど、逆方向に打つときに後ろ足が離れてしまうのは、本来スイング速度を速くしたい、大きなエネルギーを獲得したいという時は、後ろ足を蹴り続けたほうが良いんですよね?
ニロ:そうですね。特に前足の力がピークになるところまでは蹴った方がいいです。そのすぐ後に体幹のエネルギーが最大になるので、少なくともそこまでは力を出し続けないと力は大きくならないです。
プロとアマチュアは何が違う?
ニロ:アマチュアの選手は、前足を踏ん張るときに大きい力を出しますが、後ろ足から力を出し続けられる選手が非常に少ないです。
重心が前に行き過ぎる選手が多くて、手からバットを出してバットのエネルギーが逆方向(体幹の方)に流れてしまう選手が結構います。
森本:構える時の適切なスタンスはありますか?
ニロ:特にこのスタンスが1番いいということはないです。どのように構えても良いですが、パワーポジションという後ろ足の股関節に力を溜めるポジションでいることが非常に重要です(写真7)。オープンでもクローズでも構える時はいいですが、パワーポジションになるときにはできるだけ後ろ足の外側のラインよりも膝が前を向いたまま、力をピッチャーの方向に出せるポジションを作ってほしいです。スタンスを作って、パワーポジションを作ったら、その時は骨盤に対して胸郭を捻った状態、その後は胸郭に対して手を捻った状態で、両足の力は逆方向に動いて、剛体的に身体を動かしてスイングする。これが1番バットにエネルギーを伝達しやすい姿勢です。

森本:今回はヒッティングバイオメカニクスを紹介しましたが、神事さんいかがでしたか?
神事:今回の話は力の情報じゃないですか。これは目では見えないのでやはり測ってみないとわからないなというのが正直な感想です。なので、本当はいい動きだったとしても悪いように見えたり、逆に悪い動きに見えても実は理にかなっていたりということが発生するんじゃないかということを感じました。また、トレーニングでいうと何が悪くてその動きにならないのか、それの原因が前足なのか、後ろ足なのか、もしくは別に原因があるのかということが測ればわかるので、それに対してアプローチをする。どうトレーニングしたらいいのかを人それぞれテーターメイド型で処方してくれるのがヒッティングでもできますよというのは理解してもらえたかなと思います。
森本:ヒッティングバイオメカニクスを受けてみたいという方はネクストベースアスリートラボにお越しいただければと思います。こちらのチャンネルのチャンネル登録とコメントもよろしくお願いします。
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Baseball Geeks編集部