世界に衝撃を与えた最強クローザー(ジャンセン編)
今回はWBC207にオランダ代表として参加したケンリー・ジャンセン投手(ジャンセン投手)について分析します。残念ながら一試合のみの登板に終わりましたが、準決勝での圧巻の投球は世界中に衝撃を与えました。
- K. ジャンセン最新データ(2017年シーズン終了時)は下記リンク
ジャンセン投手のプロフィール
オランダ領アンティルのキュラソー島ウィレムスタッド出身のメジャーリーガー。捕手から投手に転向した経緯をもつ異色の右腕で、現在はMLBのロサンゼルス・ドジャースに所属しています。
2016年シーズンは47セーブをマークした球界を代表するクローザーです。今大会では、オランダ代表の切り札として、決勝ラウンドから代表に合流しました。
投球結果の割合
最高峰のカットボール!高い空振り率とフライ割合
【表1】をみると、ジャンセン投手は全球種で高い空振り率をみせています。また、カットボールはフライ割合がMLB平均を大きく上回っています。
一般的にカットボールはゴロを打たせる目的で投球される場合が多いのですが、ジャンセン投手の場合は違います。空振りを奪い、フライを打たせるボールといえます。
球種 | スイング割合 (Sw Rate) | 空振り割合 (Whf/Sw) | ゴロ割合 (GB/BIP) | ライナー割合 (LD/BIP) | フライ割合 (FB/BIP) |
---|---|---|---|---|---|
4シーム | 50% (46%) | 39% (19%) | 75% (36%) | 0% (28%) | 25% (27%) |
カットボール | 57% (50%) | 33% (23%) | 28% (46%) | 21% (25%) | 38% (22%) |
スライダー | 42% (49%) | 42% (36%) | 67% (46%) | 17% (25%) | 17% (21%) |
球種毎の投球割合と球速差
驚異の投球割合と高速カットで打者をねじ伏せる!
【表2、3】の投球割合をみると、カットボールの割合が圧倒的に多いことがわかります。対右打者、対左打者ともに約9割をカットボールが占めています。
カットボールこそジャンセン投手の投球の中心であり、最大の武器です。また、4シームは右打者に対して投球していません。各球種の球速をみると、カットボールは4シームとほぼ同様のスピードを記録しており、超高速なボールといえます。
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
カットボール | 151 (143) | 100 (96) | 157 (149) | 91 |
スライダー | 135 (136) | 89 (91) | 139 (144) | 8 |
カッコ内はMLB平均
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 153 (149) | 100 (100) | 156 (154) | 7 |
カットボール | 151 (143) | 100 (96) | 158 (149) | 88 |
スライダー | 134 (136) | 88 (91) | 139 (144) | 4 |
カッコ内はMLB平均
球種毎の変化量
伸びるカットはもはや別次元!これぞ伝家の宝刀!
【図1、2】をみると、いかにジャンセン投手のボールが異質かわかります。
【表4、5】とあわせて球種ごとに変化量の特徴をみていきます。
参考:メジャーリーグで投球される球質の特徴~ボール変化量とは~
※薄色は各球種のMLB平均
- 4シーム
4シームはMLB平均よりもややシュートしています。
- カットボール
MLB平均と比べて大きく伸びています。ホップ成分はMLB平均の4シーム以上の数値をみせている驚異的なボールです。スライド成分も大きく、打者は浮きながらスライドするように感じるボールでしょう。
- スライダー
スライダーはMLB平均よりも大きく沈んでいます、横の変化も平均以上の変化をみせており、縦気味の大きなスライダーといえます。
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
カットボール | 2590 (2275) | 47 (32) | -5 (2) |
スライダー | 2455 (2264) | -2 (13) | -10 (-5) |
カッコ内はMLB平均
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2381 (2253) | 47 (45) | 29 (23) |
カットボール | 2575 (2275) | 46 (32) | -3 (2) |
スライダー | 2025 (2264) | -2 (13) | -9 (-5) |
カッコ内はMLB平均
球種毎のリリースポイント
長いエクステンションが特徴
【表6、7】をみると、エクステンションが非常に長いことがわかります。エクステンションが長いと、ボールを前でリリースしているということになります。
リリース高も高く、非常に威圧感を感じる投手であるといえるでしょう。リリース横も高い数値を示していますが、スリークォーター気味のフォームではありません。
長いリーチを生かしてプレートの端から投げ込んでくるため、カットボールの変化もより感じることでしょう。
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
カットボール | 188 (181) | 59 (52) | 217 (184) |
スライダー | 188 (181) | 57 (56) | 206 (178) |
カッコ内はMLB平均
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 187 (180) | 57 (50) | 224 (188) |
カットボール | 188 (181) | 62 (52) | 217 (184) |
スライダー | 188 (181) | 62 (56) | 205 (178) |
カッコ内はMLB平均
球種毎のカウントとゾーンからみた特徴
割合は下がっても7割。ほぼすべてがカットボール!
- 4シーム
【表8、9】をみると 4シームの投球割合は左打者の0-2、1-2のカウントに集中しています。投球されるゾーンは9割が外角のボールゾーンとなっています。【図3】
- カットボール
投球割合の9割がカットボールのジャンセン投手ですが、やや割合が下がるカウントがあります。0-2のカウントでは右打者に対して78%、左打者に対して69%となっています。
しかしながら、下がっても依然7割り以上はカットボールを投球しており、投球のほぼ全てはカットボールといえます。【表10、11】
投球されるコースは高めが多いことも特徴です。前述したように、ジャンセン投手のカットボールは、ゴロではなくフライを打たせたり、空振りを奪う目的で投球されていることがわかります。【図4、5】
- スライダー
0-2、1-2、2-2(右打者のみ)以外のカウントでは0%に近い投球割合となっています。投球されるゾーンは半数以上が低めのボールゾーンであることも特徴で、ホップの大きなカットボールと上手く組み合わせて打ち取っていることがわかります。【表14、15】【図6、7】
ジャンセン投手への対策
再現不可能。唯一無二の決め球攻略のカギはマシン打撃!?
ジャンセン投手の最大の特徴はやはりカットボールです。投球は9割以上がカットボールとなっているにもかかわらず、打者はほとんど打つことができません。その理由は変化量にあります。ジャンセン投手のカットボールは、大きく曲がりながら伸びるボールです。メジャーリーグでもこのようなボールを投球している投手は見当たりません。
更にジャンセン投手はクローザーであるため、試合の中で慣れることも容易ではないでしょう。他のボールのイメージを捨てて、ジャンセン投手のカットボールの軌道を強くイメージする必要があります。
そこで、少しでもジャンセン投手のボールに近い球を再現するためにマシン打撃の練習方法が効果的であると考えます。一般的にマシン打撃での打撃練習は実際の投球と「ズレ」を感じる打者が多いと言われます。
しかしジャンセン投手の特殊なボールを攻略するには、「ズレ」をあえて再現して打撃練習を行うことが効果的かもしれません。ジャンセン投手のカットボールは高めに多く投球されます。当てに行くのではなく、フルスイングできるよう備えるべきでしょう。
- まとめ:ジャンセン投手攻略法
- カットボールの軌道を強くイメージ
- 人間では再現不可能。マシン打撃で練習が効果的か
ジャンセン最新記事はこちら
K.ジャンセン分析 最強クローザーのカットボールはもはや…!!!
※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)
Baseball Geeks編集部