【MLB】バントヒット王は大谷翔平？シフト破りバントの有効性を分析

投げては9勝・打っては46本塁打・走れば26盗塁と走攻守すべてでメジャーを湧かせ、満場一致でMVPを獲得した大谷翔平。今シーズン達成した意外な記録として、セーフティバントの成功率がメジャートップであることがあげられる。大谷のような強打者は極端な内野守備シフトをしかれることも多く、バントで裏をかくシーンも目立った。果たしてバントによる守備シフト破りはどの程度有効なのだろうか？トラッキングデータには守備シフトも記録されているため、分析を進めていく。
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まずはメジャーリーグのセーフティバント事情を把握するために、セーフティバント成功率ランキングを示す（表1）。

データは2021年のレギュラーシーズン。4度以上企図した選手を対象。バントによってインフィールドに転がった打球のうち、安打になった確率を求めた。空振り・ファールになった試行は分母に含まれていない。

大谷は5回の挑戦で4度成功させ、見事ランキングトップになった。3位のベルトや4位のギャロも今季30本近く本塁打を放った強打者であり、彼らは守備シフトの裏をかいてセーフティバントをしていたと考えられる。実際に大谷のセーフティバントの内訳をみると、5回中4回は守備シフトを敷かれた場面であることがわかる（表2）。

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大谷が唯一アウトになった試行をみると、投手に捕球されてしまったことがわかる。このように内野手のいない方向に転がしても、投手や捕手に捕球される可能性がある。しかし、成功率が8割なら打率8割OPS1.600であるので、有効な作戦とも考えられる。果たして守備シフト時のセーフティバントはどの程度有効なのだろうか、分析を進めていく。

通常時と内野シフト時のセーフティバントの成功率を比較すると、内野シフト時の方が2割ほど高いことがわかる（表3）。内野シフト時はセーフティバントが決まりやすい状況であることは確かなようだ。

データは2021年のレギュラーシーズン。ランナー無しの状態からバントによってインフィールドに転がった打球のうち、安打になった確率を求めた。空振り・ファールになった試行は分母に含まれていない。また、内野シフトは内野手が一塁側（三塁側）に偏ったシフトを指しており、内野5人シフトを代表とする特殊な守備シフトは含まれていない。

シフトが敷かれた際の成功率は6割弱で、OPSに換算すると1.130相当とかなり高い値になる。しかしバントは基本的に単打にしかならないため、後続の打者が打たないと得点につながらない。また、バントの長打率は6割弱と考えると、ホームランを狙える打者がバントをするのはもったいない場面もあるだろう。シフト破りのバントの有効性は相手投手やチーム事情との兼ね合いになりそうだ。

最後に、シフト時のセーフティバントの到達位置と結果を示す（図1）。ホームプレートに近い位置ではアウトが目立ち、ダートサークル（バッターボックス中心の円）を越えて10mほど転がった場合にはセーフになる場合が多いことがわかる。当たり前ではあるが、捕手にすぐ取られないようにある程度勢いをつけて転がす必要があるようだ。

また、右投手（図2）と左投手（図3）に分けると、右投手相手では三塁側に転がすとヒットになりやすく、左投手相手だと一塁側にヒットゾーンがあることがわかる。メジャーの右投手（左投手）は投球後に一塁側（三塁側）に体が流れる投手が多いため、ヒットゾーンに違いがあると考えられる。投手のピッチングフォームの違いも、成功率に大きく影響するといえるだろう。

本記事では大谷のバント安打率の高さに注目し、セーフティバントの有効性を議論した。シフト時のセーフティバント成功率は6割弱で、出塁率の視点からは優秀なものの、長打率の点からはもったいない場面もあるという絶妙な結果となった。シフト破りバントの有効性は相手投手やチーム事情との兼ね合いになりそうだ。例えば、セットポジションが苦手な投手や盗塁への警戒が薄いバッテリーに対してバント安打を狙うということが考えられる。強打者がセーフティバントをした時は、その背景にある事情にも注目にすると面白そうだ。