ダルビッシュ投手2016年シーズン分析 その2
ダルビッシュ投手の4シーム
ダルビッシュ投手の4シームのボールの変化量を、メジャーリーグの平均と比較してみたいと思います。【表1、2、3】【図1、2】
縦の変化量(ポップ成分)
・MLB平均:45cm
・ダルビッシュ投手:53cm
横の変化量(シュート成分)
・MLB平均:23cm
・ダルビッシュ投手:11cm
バットは地面に対して平行になるため、シュート成分が少なくホップ成分が大きいボールは、バットの上を通過することになります。ダルビッシュ投手が投球した4シームの空振り率が高い原因は、特徴的な変化量にあると考えられます。
ボールの変化量を決めている要因の1つがスピンレートというお話を以前しました。ダルビッシュ投手の4シームのスピンレートは2477rpmと、メジャーリーグ平均よりも10%高い数値となっています。
ホップ成分の大きいボールは、高速なスピンが原因となっているのかも知れません。
球種 | スピンレート(rpm) | 縦変化(cm) | 横変化(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2253 | 45 | 23 |
2シーム | 2159 | 34 | 38 |
カットボール | 2275 | 32 | 2 |
スプリット | 1613 | 20 | 29 |
スライダー | 2264 | 13 | -5 |
チェンジアップ | 1787 | 26 | 34 |
カーブ | 2413 | -15 | -17 |
球種 | スピンレート(rpm) | 縦変化(cm) | 横変化(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2533 (2253) | 53 (45) | 11 (23) |
2シーム | 2262 (2159) | 38 (34) | 31 (38) |
カットボール | 2575 (2275) | 21 (32) | -16 (2) |
スプリット | 1847 (1613) | 36 (20) | 25 (29) |
スライダー | 2589 (2264) | -7 (13) | -33 (-5) |
カーブ | 2470 (2413) | -35 (-15) | -30 (-17) |
カッコはMLB平均
球種 | スピンレート(rpm) | 縦変化(cm) | 横変化(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2506 (2253) | 53 (45) | 11 (23) |
2シーム | 2222 (2159) | 36 (34) | 29 (38) |
カットボール | 2538 (2275) | 23 (32) | -12 (2) |
スプリット | 1622 (1613) | 28 (20) | 25 (29) |
スライダー | 2584 (2264) | -12 (13) | -33 (-5) |
カーブ | 2442 (2413) | -33 (-15) | -29 (-17) |
カッコはMLB平均
※薄色は各球種のMLB平均
ダルビッシュ投手のスライダー
ダルビッシュ投手のスライダーのボールの変化量を、メジャーリーグの平均と比較してみたいと思います。【表1、2、3】【図1、2】
■横の変化量(スライド成分)
・MLB平均:−5cm
・ダルビッシュ投手:-33cm
つまりメジャーリーグの平均よりも28cmも大きく曲がっていることが分かります。
さらに、ドロップ成分については、対右打者で7cm、対左打者で12cmと、どちらもドロップ方向に曲がっています。特に左打者に投げるスライダーは、右打者よりもドロップ成分が4cm大きく、高速なカーブの軌道に近いのかもしれません。
ダルビッシュ投手のスライダーの球速は、メジャーリーグ平均よりも4%遅いという特徴がありましたが、より大きく曲げるために、球速が遅くなっている可能性があります。
サッカーのカーブキックに例えますと、ボールをインパクトするときボールの中心から外れた場所を蹴って回転を掛けます。このときボールのスピードが犠牲となり、ボールに回転が与えています。
ダルビッシュ投手のスライダーのスピンレートが、メジャーリーグの平均よりも約10%大きいことからも、サッカーのカーブキックと同様のメカニズムによってボールに回転を与えている可能性があります。より大きく曲げるために、球速が犠牲になっていると言えるかも知れません。
メジャーリーグ投手の平均的なリリースポイント
投手のリリースポイントに関する指標としては主に以下の3つがあり、その指標について説明します。
- リリース高
ピッチャーズプレートから1.676mの地点のボールと地面の距離になります。この指標はbaseballsabvant より入手できます。
- リリース横
ピッチャーズプレートから1.676mの地点のピッチャーズプレート中心から三塁方向の距離になります。この指標もbaseballsabvant より入手できます。
- エクステンション
ピッチャーズプレートからリリースした地点の距離になります。Trackmanで計測された指標で、いわゆる「球持ち」に当たります。
以上の3つのリリースポイントの指標において【表4】のメジャーリーグ平均から以下のことがわかります。(左投手も右投手として変換してあります)
- リリース高
リリースの高さはだいたい180cm前後です。
カーブのリリース位置が187cmと約7cm高い。トップスピンを与えるために、リリースが高くなってしまうのでしょう。
- リリース横
2シームや、スライダーのようにサイドスピンを与える球種は、値が大きくなっています。サイドスピンを与えるためには、若干リリースを横にする必要があるのかもしれません。
- エクステンション
カーブやスライダーは値が小さく、リリースが手前になる傾向が見て取れます。トップスピン系の球種は、リリースが手前になる傾向があります。
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 180 | 50 | 188 |
2シーム | 178 | 54 | 187 |
カットボール | 181 | 52 | 184 |
スプリット | 183 | 50 | 182 |
スライダー | 181 | 56 | 178 |
チェンジアップ | 179 | 54 | 188 |
カーブ | 187 | 53 | 173 |
ダルビッシュ投手のリリースポイント
ダルビッシュ投手のリリースポイントについてMLBの投手の平均と比較してみます。【表5、6】
- リリース高
・MLB平均:180cm
・ダルビッシュ投手:169cm(MLB平均より11cm下回っている)
- エクステンション
・MLB平均:188cm
・ダルビッシュ投手:202cm(MLB平均より14cm上回っている)
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 169 | 70 | 202 |
2シーム | 171 | 69 | 199 |
カットボール | 173 | 75 | 186 |
スプリット | 175 | 63 | 196 |
スライダー | 174 | 77 | 180 |
カーブ | 182 | 66 | 184 |
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンションcm) |
---|---|---|---|
4シーム | 169 | 70 | 202 |
2シーム | 170 | 70 | 201 |
カットボール | 171 | 72 | 190 |
スプリット | 172 | 69 | 201 |
スライダー | 173 | 76 | 180 |
カーブ | 180 | 66 | 189 |
リリース高がMLB平均を大きく下回っているのはエクステンションが長く、MLBの平均的な投手のより前方でリリースしているからではないかと推察されます。
ダルビッシュ投手のようなホップ成分が大きい投手にとって、リリースが低いことはメリットとなります。リリースが低くホップ成分が大きいボールを投球した場合と、リリースを高くしてポップ成分が小さくて垂れるようなボールを投球した場合を、打者に到達するときのボールの軌道の角度(入射角)の観点から比較してみましょう。
■リリースが低く、ポップ成分が大きい場合
入射角が上向きになる
■リリースが高く、ポップ成分が小さい場合
入射角が下向きになる
リリースが低く、ポップ成分大きい投手が高めに投球した場合は、さらに上向きの入射角になります。空振りを奪うためにはボールはバットの上を通過しなくてはなりませんから、上向きの入射角を持ったボールというのは、空振りを奪うためには好都合ということになります。
このように、投手の球質は選手によって特徴があります。また、右打者や左打者によっても、投球するボールが異なってきます。
そして、もう一つ投手の投げるボールを変化させる要因となるのがカウントです。次回は、このカウントに焦点を当て、球速がどう変化するのか、またどういう球種を選択しているのかを調べてみたいと思います。
※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)
Tsutomu Jinji