ダルビッシュ投手2016年シーズン分析 その1
Baseball Geeksでは、baseballsavantとBaseball Prospectusで公開されているデータを使って分析していきます。今回は、ダルビッシュ有投手の特徴について明らかにしていきたいと思います。
メジャーリーグの投手はどうやって打者を打ち取っているか
ゴロになる割合が高い2シーム
まずBaseball Prospectusのデータを使って、メジャーリーグの投手が2016年シーズンに200球以上投げた7球種の投球に対するスイング割合や空振り割合、打球の種類についてまとめました【表1】。
球種 | スイング割合 (Sw Rate) | 空振り割合 (Whf/Sw) | ゴロ割合 (GB/BIP) | ライナー割合 (LD/BIP) | フライ割合 (FB/BIP) |
---|---|---|---|---|---|
4シーム | 46% | 19% | 36% | 28% | 27% |
2シーム | 44% | 13% | 56% | 24% | 16% |
カットボール | 50% | 23% | 46% | 25% | 22% |
スプリット | 53% | 34% | 52% | 24% | 19% |
スライダー | 49% | 36% | 46% | 25% | 21% |
チェンジアップ | 54% | 33% | 50% | 24% | 20% |
カーブ | 40% | 32% | 51% | 24% | 20% |
2016シーズンで200球以上投球した投手の平均
それぞれのポイントについて説明します。
- スイング割合
(投球されたボールのうち何%を振りにいく
のか) ・チェンジアップ:54%
スイング割合が高くもっとも振りにいきやすい球種と言えます。
・カーブ:40%
上向きに投げ出す必要があるので、他の球種と軌道が大きく異なります。
つまり、リリース直後に上方にボールが逸れるので、打者はカーブと察知しやすい球種となっています。カーブを狙っていない打者にとっては、「振らない」と判断しやすい球種であると言えるでしょう
- 空振り割合
(スイングしたうちの何%空振りするのか) ・スライダー:36%
空振り割合が一番高く、空振りを奪う球種となっています。
・2シーム:13%
空振りが少なく、バットに当たる球種になっています。2シームは、空振りよりもゴロを打ち取る球種であることが一般的には言われています。
- ゴロ割合
(インプレーになった打球のうち、何%がゴロになるのか) ・2シーム:56%
半分以上がゴロになる球種となっています。
- フライ割合
(インプレーになった打球のうち、何%がフライになるのか) ・4シーム(直球):27%
ゴロになりにくく、フライになりやすいことがデータから分かります。
一般的に、フライはゴロより安打になりやすく長打にも繋がりやすいため、ゴロを打たせる球種のほうが評価は高くなる傾向があります。
ダルビッシュ投手の「球種」の特徴
空振り率の高い4シーム
これらメジャーリーグの平均値からダルビッシュ投手の特徴を見ていきます【表2】。まず、特徴的なのが4シームの空振り割合。空振り率は27%(MLB平均より8%高い)で、空振りを奪う能力の高い球種であると言えます。
しかしながら、ボールがバットに当たってしまうと、ゴロになりにくく、ライナーやフライが増えるという傾向も見て取れます。
また、スライダーに関しては、スイング割合が高く、さらに空振り率も高い傾向にあります。
全体的な球種の傾向としても、「空振りは取れるが、フライやライナーも多い」というのがダルビッシュの特徴ではないでしょうか。
球種 | スイング割合 (Sw Rate) | 空振り割合 (Whf/Sw) | ゴロ割合 (GB/BIP) | ライナー割合 (LD/BIP) | フライ割合 (FB/BIP) |
---|---|---|---|---|---|
4シーム | 47% | 27% | 30% | 33% | 30% |
2シーム | 44% | 20% | 50% | 21% | 23% |
カットボール | 47% | 33% | 36% | 23% | 23% |
スライダー | 55% | 39% | 47% | 26% | 26% |
カーブ | 46% | 36% | 38% | 27% | 27% |
メジャーリーグの投手が投げる平均的なボールって?
最高球速は読売ジャイアンツへ移籍したカミネロ投手
このような結果となるボールには、どのような特徴があるのでしょうか。これまでと同じように、まずMLBの投手の平均的なボールを見ていきましょう。
2016年のレギュラーシーズンにおいて1球でも投球した投手は742名いました。そのうち1000球以上投球した投手は266名。代表的な7球種の平均球速と最高球速を挙げました【表3】。
2列目は、もっとも高速な球種の平均を100%として、各球種の球速が何%に当たるのかを表してあります。
- MLBの平均球速:149km/h
(4シームと2シームはほぼ差がない) ・カットボール:4シームの96%(高速球種)
・カーブ:4シームの84%(最も遅い球種)
スプリット、スライダー、チェンジアップのように、落としたり曲げたりするボールは球速が遅くなる傾向があります。
- MLBの最高球速の平均値:154km/h
(4シーム) なお、シアトル・マリナーズから読売ジャイアンツへ移籍したカミネロ投手が最速で164.5km/hでした。
球種 | 平均球速(㎞/h) | 平均球速(%) | 最高球速(㎞/h) |
---|---|---|---|
4シーム | 149 | 100 | 154 |
2シーム | 149 | 100 | 153 |
カットボール | 143 | 96 | 149 |
スプリット | 138 | 92 | 144 |
スライダー | 136 | 91 | 144 |
チェンジアップ | 137 | 92 | 144 |
カーブ | 125 | 84 | 135 |
ダルビッシュ投手の「球速」の特徴
MLB平均より速い4シームと平均より遅い変化球
ダルビッシュ投手の4シームの平均球速は、MLB平均を約3km/h上回っていました【表4】【表5】。最高球速については159km/hと、MLB平均を5km/h速い結果となっています。
また、球種割合の高いスライダーについては、86~87%とMLBの平均的なスライダーよりも遅いボールとなっています。カットボールもMLB平均より若干遅くなっています。
これらのことから、4シームと2シームの速度に比べて、遅い変化球を操っているのがダルビッシュ投手の特徴と言えるでしょう。
球種の割合に目を向けると、ダルビッシュ投手は左打者へは2シームの割合が減り、カットボールの割合が増えるという傾向も読み取ることができます。打者の左右によって、球種の割合を変えている投手であることも特徴でしょう。
球種 | 平均球速(㎞/h) | 平均球速(%) | 最高球速(㎞/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 153 | 100 | 159 | 40 |
2シーム | 151 | 99 | 158 | 23 |
カットボール | 143 | 94 | 151 | 7 |
スプリット | 140 | 92 | 145 | 2 |
スライダー | 132 | 87 | 140 | 22 |
カーブ | 116 | 76 | 123 | 7 |
球種 | 平均球速(㎞/h) | 平均球速(%) | 最高球速(㎞/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 152 | 99 | 159 | 41 |
2シーム | 150 | 98 | 159 | 14 |
カットボール | 145 | 95 | 153 | 14 |
スプリット | 140 | 92 | 145 | 3 |
スライダー | 132 | 86 | 138 | 19 |
カーブ | 116 | 76 | 124 | 8 |
球種という分類から話しを進めてきましたが、4シームにはいろいろな種類がありますし、他の球種も人によってかなり異なっています。次回は、いわゆる「球質」について取り上げていきたいと思います。
参考:ダルビッシュ投手2016年シーズン分析 その2
Tsutomu Jinji