上原浩治2017年分析「日本球界に新常識を!」
- 目次
- 新天地シカゴ・カブス
- 各球種の球速と投球割合(昨シーズンとの比較より)
- 各球種の変化量(昨シーズンとの比較より)
- 各球種のフォームの特徴(昨シーズンとの比較より)
- 各球種のカウントとゾーンの特徴(昨シーズンとの比較より)
- 2017年飛躍のポイントを探る
- あとがき
前回に引き続き上原投手を特集していきます。前回は昨シーズンのデータを分析し、活躍の秘密に迫りました。
参考:上原浩治投手2016シーズン分析!各球種をデータで解説!
今回は、今シーズンの上原投手の最新の5試合(4/16現在)を分析し、昨シーズンと比較しました。
新天地シカゴ・カブス
上原投手は今シーズンから前年世界一のシカゴ・カブスに移籍しました。今シーズンはセットアッパーとしてここまで試合終盤の重要な場面を任されています。
4/16のパイレーツ戦では移籍後初失点を喫してしまいましたが、マドン監督は「信頼は変わらない」と語るなど、経験豊富なベテランにかかる期待は大きいものです。
各球種の球速と投球割合(昨シーズンとの比較より)
2球種で勝負
各球種の球速は昨シーズンとほぼ同様です。前回も紹介したように、平均球速はメジャーリーグ平均を下回っており、球速以外の武器を駆使しているといえます。【表1、2】
投球割合をみると、対右打者、対左打者ともに同様の割合で投球しています。昨シーズンは、2シーム、カットボールと変化の小さな「動くボール」を投球していましたが、今シーズンはまだ投球していません。
昨シーズンよりもさらに少ない2球種のみで勝負しています。
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合(%) |
---|---|---|---|---|
4シーム | 139
(141) | 100
(100) | 141
(144) | 61 |
スプリット | 127
(128) | 91
(91) | 130
(138) | 39 |
カッコ内は昨シーズンデータ
球種 | 平均球速(km/h) | 平均球速(%) | 最高球速(km/h) | 投球割合 |
---|---|---|---|---|
4シーム | 139
(140) | 100
(100) | 141
(144) | 60 |
スプリット | 127
(127) | 90
(92) | 130
(139) | 40 |
カッコ内は昨シーズンデータ
各球種の変化量(昨シーズンとの比較より)
意図せずか?4シームのシュート成分が増加
4シームの伸びは今年も健在です。ホップ成分が昨シーズンにも増して大きく、非常に伸びるため打者は空振ってしまうでしょう。
また、シュート成分が大きくなっていることも特徴です。特に右打者への4シームのシュートが昨シーズンよりも大きいことは注意が必要です。意図せぬシュートであった場合、自慢の制球に影響を与えかねません。今シーズンの上原投手を占うポイントの一つかもしれません。【図1、2、3、4】
スプリットは昨シーズンよりも落差が減っています。4シームのシュート成分が増加していることから、球が抜けないように抑え気味に投球しているのが原因かもしれません。特に右打者に対しては落差の減少が顕著です。
一方で、左打者に対しては、シュートが大きいスプリットは、効果的でしょう。伸びの大きな4シームと、逃げながら落ちるスプリットの組み合わせは非常に効果的で、左打者が打ち崩すのは今年も難しいでしょう。
しかし4シーム同様、意図しない場面でスプリットが落ち切らなかった場合、長打の恐れもあり、注意が必要かもしれません。【表3、4】
※薄色は各球種のMLB平均
※薄色は各球種のMLB平均
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2359
(2401) | 57
(45) | 44
(23) |
スプリット | 1841
(1735) | 32
(20) | 39
(29) |
カッコ内はMLB平均
球種 | スピンレート(rpm) | 縦の変化量(cm) | 横の変化量(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2341
(2414) | 62
(45) | 39
(23) |
スプリット | 1691
(1754) | 27
(20) | 50
(29) |
カッコ内はMLB平均
各球種のフォームの特徴(昨シーズンとの比較より)
タイミングを取らせないフォームは健在
リリースの位置は今年も変わらず、エクステンションの短さは大きな武器の一つとなっています。上原投手自身は「投球フォームは変化し続けるもの」と語っており、投球テンポやフォームのリズムは常に変わり続けていくでしょう。【表5、6】
エクステンションの短さに加えてフォームのリズムを変化させることで、打者はよりタイミングを取るのが難しくなるでしょう。
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 180
(181) | 34
(35) | 168
(171) |
スプリット | 179
(180) | 37
(34) | 160
(161) |
カッコ内は昨シーズンデータ
球種 | リリース高(cm) | リリース横(cm) | エクステンション(cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 181
(182) | 38
(35) | 165
(169) |
スプリット | 177
(179) | 40
(34) | 160
(159) |
カッコ内は昨シーズンデータ
各球種のカウントとゾーンの特徴(昨シーズンとの比較より)
新常識を生み出す!?「低めに集め“ない”4シーム」
「投手の基本は低め」経験者ならだれもが一度は聞いたことがあるでしょう。この常識を上原投手は覆してくれるかもしれません。
【図5、6】をみると、4シームをほとんど低めに投球していません。右打者にいたっては一球も投球していません。昨シーズンも上原投手は、4シームが伸びる特性を活かして高め中心に投球していました。今シーズンはその傾向が更に顕著です。
伸びる4シームは高めに、落ちるスプリットは低めに、その球種の特性を最大限に活かすゾーンに投球することで、上原投手は多くの三振を奪っています。決して球速が速くない上原投手がメジャーリーグで活躍し続けることで、日本球界でも新常識を生み出してくれるかもしれません。
しかし注意しなければならないこともあります。上原投手は大きく伸びる4シームを高めの厳しいコースに投球し続ける高いコマンド力があります。ホップが大きくない4シームや、高めに投げ切れずに真ん中周辺に来たボールは打者にとって格好のチャンスボールとなります。
その球種の特性を理解し、最大限に活きるゾーンに投球することが、投手の新常識といえるかもしれません。
2017年飛躍のポイントを探る
メジャー9年目を迎えた上原投手ですが、変わらぬ投球を見せてくれています。パイレーツ戦では今シーズン初の失点を喫してしまいましたが、チームやファンの期待は変わりません。今後もワールドシリーズ連覇に向けて重要な場面での投球は続くでしょう。
そこで今シーズンの更なる飛躍のポイントとして4シームのシュート成分を挙げたいと思います。
上原投手の4シームは、球速こそ速くないものの、今年もホップ成分が大きく、打者の手元で非常に伸びます。一方で、昨シーズンと比べてかなりシュートしています。
シュート自体が悪いことではありませんが、右打者の外角に投球したボールが予期せずシュートした場合、打ちやすいゾーンに投球されてしまいます。またホップ成分が大きいということは、フライになりやすく、甘いコースに来たら長打を浴びる可能性があります。
リリーフとして重要な場面の登板では、一本の長打が勝負を左右することもあります。4シームのシュート成分をコントロールできるかが、今シーズンのポイントとなるのではないでしょうか。
あとがき
2回にわたって上原投手を特集してきました。その活躍の秘密をひとつひとつ紐解くたびに、思わず膝を打ってしまいたくなる技術が垣間見えます。今年も変わらぬ活躍を確信すると同時に、日本野球の新常識を作ってしまう期待さえしています。
かつてのスター選手の引退や、新スター達の台頭で、日本球界は世代交代期ともいえます。その中にあって、上原投手のメジャーリーグでの活躍は多くの野球ファンの夢となっています。
「やっぱり日本のエースは上原だよな!」今シーズンも更なる活躍を期待しています!
参考:電撃復帰!上原浩治は巨人の救世主となるのか!「打たれない」140キロの秘密をトラックマンデータで徹底解析!
※Baseballsavantリニューアルに伴い、一部データを更新しました(2017/6/22)
Baseball Geeks編集部